本シンポジウム(主催、理化学研究所)は、「細胞・組織スケール」でのライフサイエンス研究における次世代の研究の方向性を探る目的で、特に複雑な生命現象を多次元・多階層で理解するために不可欠な数理科学との融合に焦点を当てて行うものです。
分子生物学・細胞生物学などの研究進展により、この十年間でライフサイエンス分野の研究は大きく前進いたしました。ゲノム研究、幹細胞研究、脳科学研究など重点的に推進された研究からは、特に多くの新たな知見が次々と生み出され、まさに日進月歩の目覚ましい進歩を見て取ることができます。
こうした研究は生命現象の基礎となる要素(エレメント)に関しての大量の情報を生み出してきました。一方で、次のレベルの生命科学の発展には、如何にこれらの多数の要素がシステム化され、複雑な生命現象自体を引き起こすのか、という問いに挑むことが不可欠となってきています。こうしたなか、遺伝子そのものを扱うゲノムインフォーマティクスや、タンパクの分子レベルの挙動を研究するタンパク構造科学や分子動力学などは、いち早く数理科学・計算科学との融合を進めて来ています。
これに比して、細胞生物学や発生生物学などの「細胞・組織スケール」の研究では、これまで数理科学・計算科学との接点が比較的限られたテーマに留まる傾向がありました。
それは、
- 分子動力学などと異なり、「基本方程式」が存在せず、model-based approachに加えて、data-drivenの考え方を併用する必要があること
- 従来のゲノムインフォーマティクスと異なり、細胞・組織スケール研究の対象では、多数の要素について質的な取扱いがヘテロであり、また多階層にまたぐことが多い
を始めとするいくつかの本質的な問題点が存在したことにも起因します。
しかし、「細胞・組織スケール」は細胞生物学や発生生物学に限らず、多くの生物・医学研究(ガン、脳、免疫その他)にも共通した生命現象の基本単位を対象とする研究であり、また現在最も爆発的に研究が進展している生命スケールでもあります。
このシンポジウムでは、実験(ウェット)、理論(モデル)、計測・摂動の3つの観点から専門家の先生方にお集まりいただき、「細胞・組織スケール」を中心とした細胞・発生研究と数理研究の融合を目指した最前線の研究をご紹介していただきます。
また、理化学研究所では、次世代スーパーコンピューター(ペタコン)の設置を神戸市ポートアイランドに進めており、2012年度末に完成を予定しております(初期稼働は2011年度末)。これに伴い、生命科学分野での次世代計算機利用の戦略を積極的に計画しております。そうした取り組みや研究開発のご紹介を併せて行います。
「細胞・組織スケール」での数理科学とウェット研究の融合による強力な研究推進体制のあり方について、専門家の先生方と参加者による自由な討論セッションを2日目の午後に計画しております。生命現象の統合的な理解を進めるために解決する必要のある「ギャップ」を、多面的に討論し、次世代研究へのアクションプランにつなげることを期待しております。
幅広い専門性をもたれた研究開発者の皆様のご参加をお持ちしております。
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