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脂肪体のグリコーゲンは飢餓に対する最後の砦

2018年03月16日
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動物は、食物からエネルギーを摂取しないと生きてはいけない。でも、常に食物が豊富にあるとは限らない。だから動物はエネルギー源であるグルコースをグリコーゲンという形にしていろいろな組織に貯蔵している。それは昆虫であるハエも同じ。しかし、昆虫の場合は体内にトレハロースというグルコースが二つ繋がったものも大量に保有しており、恒常性や体内環境の維持に重要な役割を担っている。グリコーゲンとトレハロースという異なる2つの形態でグルコースを貯蔵しているのはなぜなのか。

理研CDBの山田貴佑記テクニカルスタッフ(成長シグナル研究チーム、西村隆史チームリーダー)らは、ショウジョウバエの幼虫の脂肪体にもグリコーゲンが存在することを示し、その生理機能を解析した。そして、脂肪体のグリコーゲンは飢餓ストレスによって分解され、体液中の糖レベルを維持するために不可欠であることを明らかにした。本成果は科学誌Development に2018年2月21日付で掲載された。

  1. 図1.臓器別による飢餓条件下のグリコーゲン分解速度の違い。(左)飢餓状態における幼虫内のグリコーゲンをPAS染色した。(右)生化学的手法にて飢餓状態におけるグリコーゲンを定量化したグラフ。

ショウジョウバエを含む昆虫に広く存在する脂肪体は哺乳類の肝臓や脂肪にあたる組織である。最近の研究で、ショウジョウバエの成虫ではグリコーゲンが筋肉や脂肪体に蓄積しており、生理的な機能やストレス耐性に関与していることが明らかになってきた。しかし、ショウジョウバエの幼虫が脂肪体に蓄積しているグリコーゲンについては、その存在から議論が別れるところだった。

山田らは、まず議論が分かれていた幼虫の脂肪体におけるグリコーゲンの蓄積について検討した。多糖を認識するPAS染色を用いた組織学的解析によって、幼虫では様々な組織にグリコーゲンが蓄積していることがわかった。特に中枢神経系や脂肪体、筋肉では強いシグナルが認められた。貯蔵糖は飢餓時のエネルギー源として利用されることが多いが、幼虫を飢餓状態にするとわずか2時間で脂肪体のグリコーゲンは半分以上が分解され、4時間後にはほとんどすべてのグリコーゲンが分解された。一方、筋肉のグリコーゲンは飢餓状態が24時間続いても2割ほどは残存し、中枢神経系のグリコーゲンに至っては飢餓条件下ではほとんど分解が起こらなかった。つまり、貯蔵されたグリコーゲンの使い道は、組織によって大きく異なり、脂肪体のグリコーゲンは飢餓時に分解して使用されていることがわかった。(図1)

飢餓時にはAkhと呼ばれる哺乳類のグルカゴンに似た分子がグリコーゲンの分解を制御すると言われている。しかし、AKhを欠損させても飢餓状態下での幼虫の脂肪体のグリコーゲン分解は変化がなかった。ではなにがグリコーゲンの分解を制御しているのだろうか。そこで餌の条件を様々に変化させてみると、グルコースを餌から摂取するだけで脂肪体のグリコーゲン分解は抑制されることがわかった。また、飢餓状態で脂肪体のグリコーゲンが分解された後、グルコースを含む餌を与えることで脂肪体のグリコーゲン量が回復することもわかった。そして、グルコースを摂取させた後のグリコーゲンの合成には、インスリンシグナルが関与していることも明らかになった。つまり、グルコースからグリコーゲンを合成したり、グリコーゲンをグルコースに分解したりする制御が、体液中のグルコースの濃度によって直接行われていることがわかった。

  1. 図2. トレハロース合成酵素およびグリコーゲン合成酵素の二重欠損では、飢餓耐性が著しく低下する。

研究チームはこれまでに、ショウジョウバエが体液中にグルコースの二量体であるトレハロースを高濃度に維持しており、トレハロースが飢餓や低栄養ストレスに対して重要であることを明らかにしてきた(ニュース 2014.12.222016.8.24)。トレハロースとグリコーゲンという2種類の貯蔵糖を、ショウジョウバエはどのように使い分けているのだろうか。飢餓条件下で素早くグリコーゲンの分解が起こるにも関わらず、脂肪体でグリコーゲン合成を行う酵素を欠損しただけでは、ほとんど表現型は見られなかった。しかし、トレハロースの合成酵素との二重欠損変異体は、トレハロースの欠損による飢餓耐性の低下やさなぎ重量の低下といった表現型をより重症化させることがわかった。このことは、脂肪体に貯蔵されたグリコーゲンは飢餓状態に陥ったときに体液中の糖濃度を維持し、生理機能を保護するために重要であることを示している。(図2)

「脂肪体は恒常性を維持するための中心となる器官です。幼虫期の脂肪体にはグリコーゲンの蓄積はないという報告もありましたが、今回の観察で幼虫期の脂肪体に貯蔵しているグリコーゲンが、飢餓条件下でトレハロースのバックアップとして体液中の糖濃度を維持するという重要な機能を持つことを示すことができました。」と西村チームリーダーは語る。「脳や筋肉のような器官の違いや成長段階の違いによるグリコーゲンの使いみちの違いについて、まだ興味はつきません。」

掲載された論文

Fat body glycogen serves as a metabolic safeguard for the maintenance of sugar levels in Drosophila.

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