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初期胚から得られるES細胞(胚性幹細胞)は、特定の環境で培養すると、あらゆる種類の体細胞に分化できる多能性を維持したまま、半永久的に分裂増殖する。通常、細胞は分裂の度にDNAの末端であるテロメアが短縮し、一定の短さに達すると分裂を止め、やがて老化して死に至る。一方、生殖細胞や幹細胞、そして癌細胞はこの仕組みを逃れた例外で、テロメアを修復しながら増殖を続けることができる。ES細胞では、Zscan4と呼ばれるDNA結合タンパク質がテロメアを修復することが知られるが、この遺伝子は全てのES細胞で発現しているわけではなく、いつどのような時に発現するのかは明らかでなかった。
理研CDBの二木陽子研究員と丹羽仁史チームリーダー(多能性幹細胞研究チーム)はマウスES細胞を用いた研究で、テロメアが短くなるとZscan4の発現が誘導され、細胞周期が延長してテロメアが修復されていることを示す結果を得た。この研究成果は、Stem Cell Reports 誌に3月17日付けでオンライン先行発表された。
今回二木研究員らは、マウスES細胞に2つの蛍光遺伝子を導入し、核を検出して細胞の位置を追跡しつつ、Zscan4の発現レベルを経時的かつ定量的に解析できる実験系を構築した。これにより、マウスES細胞を細胞1つ1つのレベルで120時間に渡って観察し、正確な細胞系統図を作成した。同時に、細胞周期の長さ、Zscan4の発現量、テロメア長などを解析し、それらの相互関係について調べた。
その結果、まず明らかになったのは、これまで約12時間と考えられてきたマウスES細胞の細胞周期が、実際は10〜30時間と大きくばらついていることだった。そこで、細胞周期の長さとZscan4の発現量との関係を調べると、細胞周期が長い細胞の方がZscan4の発現量が多いことが明らかになった。また、Zscan4の発現量が多い細胞では、次の細胞周期が短くなることも示された。さらに、細胞周期とテロメア長との関係を調べると、細胞周期の長い細胞の方が、テロメアが短いことが分かった。これらの結果は、ES細胞が分裂を繰り返してテロメアが短くなると、Zscan4の発現が誘導されてテロメアが修復され、その間細胞周期が延長されていることを強く示唆していた。
二木研究員らは、多能性マーカー遺伝子の発現とZscan4の発現との関係も調べたが、これらの間に相関性は見られなかった。このことは、Zscan4によるテロメアの修復は、多能性の維持機構とは独立して働いていることを示唆していた。
「ES細胞は不均一な集団であることが近年分かりつつあります。今回、細胞1つ1つの挙動を詳細に観察することで、集団の観察だけでは分からなかったテロメア修復のメカニズムが明らかになってきました」と二木研究員は語る。「Zscan4はテロメア長のセンサーからの指令で働いている可能性があり、今後その詳細を明らかにして行きたいと思います。このように、ES細胞の基礎的性質を明らかにすることで、iPS細胞を含む多能性幹細胞のより安定的な培養法の開発に繋がることを期待しています」。
掲載された論文 |
Zscan4 is activated after telomere shortening in mouse embryonic stem cells. |
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