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上皮細胞の微小管を正しく配向させるメカニズム

2016年01月19日
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体の中と外とを隔てる表皮や管状組織の粘膜を構成する上皮細胞は、外気や管腔に面する頂端部と結合組織に接する基底部とを形成することで、種々の機能を果たしている。この極性に従って、細胞内の構成要素も適切に配置される必要がある。細胞骨格を担う微小管もその一つで、上皮細胞の中では頂端-基底軸に沿って、まるでストリングカーテン(紐のカーテン)のように規則正しく配向することが知られる。しかし、このような特徴的な微小管の配向パターンを可能にする分子機構は不明だった。

理研CDBの戸谷美夏研究員(高次構造形成研究チーム、竹市雅俊チームリーダー)らはマウスの腸管上皮細胞をモデルに、微小管結合タンパク質CAMSAP3が上皮細胞特有の微小管の配向を制御することを明らかにした。さらに、この微小管配向が細胞内小器官の正しい配置に重要であることを示した。この成果は、科学誌Proceedings of the National Academy of Sciences USA 1月12日号への掲載に先立ち、2015年12月29日付でオンライン公開された。

  1. (左)CAMSAP3(赤)と微小管(緑)の分布。(右上)核の配置(青:核、緑:頂端皮質、赤:基底膜)。(右下)ゴルジ体の配置(青:核、緑:頂端皮質、赤:ゴルジ体)。いずれも左が野生型、右が変異型。右上下のスケールバーは10μmを表す。

微小管は細胞の骨組みとして形態維持に寄与するほか、細胞内輸送のレールとなったり、分裂時に染色体を反対方向に引っ張る分裂装置として働いたりと、実に多様な役割を担う。その紐状の構造には方向性(プラス端/マイナス端)があり、プラス端では活発に伸長が起こっている。上皮細胞では、頂端面にマイナス端を、基底面にプラス端を向けて規則正しく配向していることが知られる。研究チームは過去に培養細胞を用いた研究から、微小管マイナス端に特異的に結合して細胞形態を制御するCAMSAP3(別名Nezha)を同定していた(*科学ニュース2012.12.32013.10.1)。そこで戸谷らは、CAMSAP3に着目して、極性をもった上皮細胞における微小管配向の仕組みを探った。

過去の研究から、CAMSAP3はC末端のCKKドメインを介して微小管マイナス端と結合することが分かっていた。そこでCKKドメインを欠損させたマウスを作製すると、ホモマウス(変異型)は成長障害を引き起こし、生後30日までに15%近くが死亡した。小腸絨毛の上皮細胞を観察すると、野生型ではCAMSAP3が頂端面に点状に分布していたが、変異型では消失していた。さらにSTED(stimulated emission depletion)超解像顕微鏡を用いて詳細に観察すると、野生型では頂端面に並ぶCAMSAP3に微小管が結合し、頂端-基底軸に沿って平行に伸びているのに対し、変異型では微小管はランダムに、ぐにゃぐにゃと波打つように分布していた。CAMSAP3は微小管マイナス端を頂端面につなぎとめることで、微小管の正しい配向に寄与していると考えられる。

次に、Camsap3変異マウスにおける細胞内小器官の分布を調べた。すると、野生型では核が基底面付近のほぼ一定の高さに並ぶのに対し、変異型では配置が乱れ、頂端面すれすれに局在するものも見られた。また、ゴルジ体は核のすぐ上(頂端側)に配置されるが、変異型では細胞質中のいたるところに散在していた。加えて、変異型では頂端-基底方向の細胞の高さを維持できないようだった。さらに電子顕微鏡で観察すると、ミトコンドリアの伸長抑制が認められ、一部の細胞では頂端面に局在するアダプタータンパク質エズリンの異常局在などが起きていた。これらのことから、Camsap3変異に伴う微小管配向エラーによって、細胞内小器官は正しい配置をとれなくなることが示唆された。

戸谷らはさらにヒト結腸癌由来のCaco-2細胞を用い、マトリゲル内で上皮細胞の極性を維持したまま培養・観察できる実験系を導入。Camsap3 shRNAによって微小管および細胞小器官の配置が乱れることを確認した。また、CAMSAP3の各ドメインを詳細に解析し、CC1ドメイン内に、頂端面への局在に必須のアミノ酸を特定した。加えて、微小管結合ドメインであるCKKドメインも、重合した微小管との結合を介してCAMSAP3の頂端面への局在に寄与することが分かった。

本研究から、CAMSAP3が微小管配向を通して細胞内小器官の正しい配置の維持、ひいては上皮細胞に特有の極性の維持に寄与することが明らかになった。「今回、生体試料のSTED超解像顕微鏡観察とCamsap3遺伝子ノックアウト実験を組み合わせたことで、上皮細胞の微小管配向をこれまでになく詳細に解析することができました。今後は、他の細胞タイプにおけるCAMSAP3の役割や、CAMSAP3に結合する微小管が細胞内構造を制御する分子機構の全容解明が課題です。また、Camsap3変異マウスが示す成長障害の原因を明らかにすることも興味深い課題です」と竹市チームリーダーは語った。

掲載された論文

CAMSAP3 orients the apical-to-basal polarity of microtubule arrays in epithelial cells.

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