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内耳形成における頂端収縮のしくみ

2015年02月19日
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発生の過程では、折り紙のように一枚の上皮シートからさまざまな器官が形成される。内耳もその一つで、上皮シートに生じた耳原基と呼ばれる部位が間充織側へと陥入し、袋状の耳胞を形成してこれが後に内耳となる。この際、上皮の陥入は2段階で起こる。まず、上皮細胞の基底側(胚の内側)で細胞が拡張し、次に頂端側(体表側)で収縮する。これによりシートが局所的に変形して陥入が起こる。多くの器官形成で重要なステップとなる上皮シートの陥入だが、それを制御する分子メカニズムは未解明な点が多い。

理研CDBのXiaorei Sai研究員(感覚器官発生研究室、Raj Ladher特別主幹研究員)らは、ニワトリの内耳発生をモデルにした研究で、上皮細胞の頂端側接着面に局在したRhoAがミオシンを活性化して頂端収縮を引き起こすことを明らかにした。この研究はライフサイエンス技術基盤研究センターの米村重信チームリーダー(超微形態研究チーム)との共同で行われ、Developmental Biology誌に報告されている(2014年8月28日付けでオンライン公開)。

  1. ニワトリ胚内耳(発生開始50時間)の電子顕微鏡像。上皮の一部が間充織側へ陥入して
    袋状に分離したところ。

研究チームは以前の研究で、耳原基の基底側ではミオシンⅡの活性化がアクチン線維の脱重合を誘導し、その結果、細胞の基底側で拡張が起きていることを示していた(科学ニュース2008.6.23)。一方、頂端側では、ミオシンⅡの活性化によって頂端側の細胞接着面に張り巡らされたアクトミオシンが収縮し、頂端収縮を引き起こすことが、原腸陥入や水晶体原基の陥入の研究で示されている。すなわち、ミオシンⅡは上皮細胞の基底側と頂端側で正反対の役割を果たしている可能性が示唆されていた。

そこでSaiらは、耳原基の頂端収縮がどのような分子メカニズムで起きているのかを調べることにした。耳以外の組織の頂端収縮では、RhoAと呼ばれるGTPアーゼがROCKキナーゼを活性化し、ROCKキナーゼがミオシンの軽鎖をリン酸化することでミオシンⅡが活性化することが知られている。今回、Saiらが耳原基において調べたところ、期待通り、RhoAは陥入に伴って頂端側の細胞接着面に局在し、活性化していることが確認された。また、RhoAの発現を抑制すると、頂端側における活性型ミオシンのレベルが低下し、頂端収縮がほとんど起こらないことがわかった。さらに、ROCKを阻害した場合、アクチンと活性型ミオシンの頂端側への局在が阻害され、頂端収縮と陥入が正常に起こらなくなった。つまり、耳原基の頂端収縮においても、RhoAを中心とするシグナル経路が働いていることが明らかになった。

そこで、SaiらはRhoAを頂端側で活性化している因子の同定を試み、それがArhGEF11と呼ばれるGEF(Guanine nucleotide Exchange Factor, グアニンヌクレオチド交換因子)であることを突き止めた。ArhGEF11は、RhoAと同様に、陥入時に頂端側の細胞接着面に局在していた。一方、ArhGEF11を阻害すると、頂端側におけるミオシンの活性化やアクチンの局在が低下した。神経管の陥入においては、RhoAとGEFの上流でCelsr1と呼ばれる因子が機能し、アクトミオシンの収縮方向を制御していることが知られている(科学ニュース2012.5.28)。そこで、Saiらが耳原基におけるCelsr1の機能を探ったところ、頂端収縮に先立ってCelsr1の発現と頂端側への局在が増加し、頂端収縮と同時にピークに達することがわかった。また、Celsr1の発現を抑制すると、ArchGEF11を発現抑制した場合と同様に、頂端側でのアクトミオシンの局在と活性が低下することが示された。

これらの結果から、Saiらは耳原基における頂端収縮の分子メカニズムのモデルを提唱している。まず、Celsr1の発現をきっかけに、ArhGEF11が頂端側の細胞接着面に動員される。続いてArhGEF11がRhoAを活性化し、RhoAはROCKを介してミオシンを活性化する。その結果として、アクトミオシンが収縮して頂端収縮が起こると考えられた。Ladher特別主幹研究員は、「神経管と内耳の形成において、同様のメカニズムが上皮シートの変形、つまり陥入を引き起こしていることが明らかになりました。今後、陥入のメカニズムの全容を明らかにすることで、その異常が生じるメカニズムも明らかになると期待しています」と語った。

掲載された論文 Junctionally restricted RhoA activity is necessary for apical constriction during phase 2 inner ear placode invagination
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