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1つの歯胚から2本の機能的な歯を形成

2015年12月18日
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歯を喪失した場合、入れ歯やブリッジ、インプラントなどの人工物で歯を代替し、口腔機能を回復する治療法が確立している。また、自己の智歯(親知らず)を欠損部に移植する歯牙移植や、歯の原基である歯胚を移植する治療なども試みられ、生物学的に機能的な歯科再生治療の確立が期待されている。しかしながら、一人の人がもつ歯や歯胚の数は限られているため、歯の数を増やす技術の開発が望まれていた。

理研CDBの辻孝チームリーダー(器官誘導研究チーム)と東京医科歯科大学の山本直大学院生、森山啓司教授らの研究グループはマウスをモデルにした研究で、1つの歯胚を結索によって2つに分割する方法を開発し、これを口腔内に移植することで2本の機能的な歯を発生させる技術を開発した。この研究成果は、オンライン科学誌Scientific Reportsに12月17日付けで掲載された。

  1. 胎齢14.5日目のマウス歯胚を結索して器官培養すると、エナメルノット(G0/G1期細胞、赤で標識)が
    2つに分割した形で生じた。
  1. news_151218
  2. (左)結索により2つに分割された歯胚。(中央)分割歯胚のマウス口腔内移植後50日目のマイクロCT像。2本の歯が形成されている。
    (右)形成された分割歯の歯髄および歯根膜に見られた神経線維。

歯の基となる歯胚は、上皮-間葉相互作用によって外胚葉から発生する。発生過程では、胎齢14.5日目に、歯の形成に重要なシグナルセンターが歯胚に形成されることが知られている。これらの発生学的知見から、彼らは胎齢14.5日目のマウス臼歯の歯胚を摘出し、細いナイロン糸でシグナルセンターを分割するように歯胚を結索して器官培養することにより、2つの歯胚に分割することを試みた。培養6日後にHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色を行なうと、それぞれが上皮組織に囲まれた2つの歯胚が形成されている様子が観察された。そこで、この結索歯胚をマウス腎皮膜下に移植して成長させると、30日後には天然歯と同様にエナメル質、象牙質、歯槽骨を持ち、歯根膜や歯槽骨に囲まれた2つの歯が形成された。これらの分割歯の大きさや咬頭(歯冠上部の突起)の数は、天然歯の約半分だった。

次に、歯胚の分割過程を詳しく解析した。その結果、結索直後からシグナルセンターであるエナメルノットが2つに分断された形で現れ、それぞれの周辺の上皮組織が増殖を続け、結索面に陥入していくことで歯胚が2つに分断される様子が観察された。また、歯の発生に重要なShh、Fgf4などの遺伝子発現を調べたところ、天然歯と同様の発現パターンを示すことが確認された。

通常発生において、歯の形態は、活性化因子としてのLef1、抑制因子としてのEctodinが形成する反応拡散波によって制御されているとの報告がある。そこで、これらの遺伝子発現を解析したところ、天然歯胚では、Lef1はエナメルノットとその周辺の間葉に発現し、EctodinはLef1領域を囲うように発現していた。次に分割歯胚で同様の解析を行なうと、同じ発現パターンが相似形を維持したまま縮小してそれぞれの歯胚にみられた。この結果は、歯胚の結索によって、反応拡散波が形成する歯形成の場が再領域化されていることを強く示唆していた。

さらに彼らは、分割歯胚をマウスの口腔内に移植して歯を発生させる実験を行なった。その結果、分割歯が顎骨に生着していること、また、移植約2カ月後には対合する歯と咬合していることがマイクロCTによる解析で分かった。次に機能面を調べると、歯に矯正力を加えた際に、骨リモデリングを伴う歯の移動が天然歯と同様に起こることが示されたことから、正常な歯根膜機能を有することが判明した。また、分割歯でも天然歯と同様に、歯髄や歯根膜に神経線維が侵入している様子が観察された。矯正力や露随刺激による侵害刺激を与えると、三叉神経脊髄路核の神経細胞でc-Fosタンパク質の産生が認められたことから、分割歯の神経が中枢と接続して機能的であることも示された。

これらの成果から、適切な時期の歯胚を結索によって2分割することにより、それぞれの歯胚が正常な歯と同様に発生し、2つの機能的な歯を形成し得ることが示された。辻チームリーダーは、「歯の喪失は、咬合、咀嚼、発音などの口腔機能だけでなく、全身の健康状態にも影響することが知られています。将来、今回の方法をヒトにも応用できれば、限られた数の自己歯胚を増やし、歯の喪失患者の再生療法に発展させられると考えています」と展望を語った。

掲載された論文

Functional tooth restoration utilising split germs through re-regionalisation of the tooth-forming field

 

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