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マウスの初期胚から得られる多能性幹細胞と言えば胚性幹細胞(ES細胞)が良く知られるが、実はもう1種類、エピブラスト幹細胞(EpiSC)がある。ES細胞は着床前の内部細胞塊(ICM)から得られ、三胚葉に加えて生殖系列への分化能も維持しているが、着床後胚から得られるEpiSCは生殖系列への分化能を失っている。近年、この分化能の違いなどから、前者をナイーブ型、後者をプライム型と区別するようになった。マウスではアクチビンとFGF経路の活性化によってナイーブ型からプライム型へと遷移することも分かっている。ヒトの場合、培養したES細胞はプライム型であることが知られ、ICMからナイーブ型のまま多能性幹細胞を単離・培養する方法は見つかっていない。このことは、プライム型、ナイーブ型における多能性の維持機構が動物種で異なっていることを示唆している。
今回、理研CDBの感覚器官発生研究室(Raj Ladher特別主幹研究員)と初期発生研究室(Guojun Sheng特別主幹研究員)の共同チームは、産卵直後のゼブラフィンチの胚盤葉にナイーブ型と思われる多能性幹細胞が存在することを明らかにした。今後、哺乳類だけでなく、鳥類を含む羊膜類において多能性幹細胞の維持、分化機構の研究が進むことが期待される。この研究成果はeLIFE誌に9月11日付けでオンライン発表されている。なお、Ladher氏とSheng氏は現在、それぞれインドNational Centre for Biological Sciencesと熊本大学で研究を行なっている。
鳥類のモデルとして一般的なニワトリやウズラでは、産卵時の発生段階が進んでいるため、ナイーブ型の幹細胞はこれまで確認されていない。今回、研究チームは、ゼブラフィンチがより早い発生段階で産卵することに着目し、鳥類におけるナイーブ幹細胞の同定を試みた。まず、産卵直後のゼブラフィンチ胚を詳細に観察したところ、胞胚初期〜中期にあたるステージ6〜8(EGKステージ分類法)であることが分かった。これらの胚では胚盤葉細胞の上皮化もまだ起きていなかった。産卵直後のニワトリ胚は、胞胚後期〜初期原腸胚にあたるステージ10〜11であることからも、ゼブラフィンチの方が早い段階で産卵していることが確認された。
そこで、産卵直後の胚盤葉細胞においてマウスで知られる多能性マーカー遺伝子の発現を調べると、Nanog、 PouV、Dnmt3bなど一般的な多能性マーカーに加え、Fbxo15、PRDM14、Tbx3などのナイーブ型に特異的なマーカーの発現が観察された。ナイーブ型のマーカーはステージ10になると大幅に発現が低下していた。また、ステージ6〜8では生殖系列マーカーの発現もみられ、これはマウスES細胞の特徴と一致していた。さらに、ゼブラフィンチ胚ではLIF経路が、ニワトリ胚ではFGF経路が活性化しており、これはマウスにおけるES細胞とEpiSCの特徴にそれぞれ一致していた。一方、興味深いことに、産卵直後のニワトリ胚でも、多くの場合発現レベルは低いものの、ナイーブ型マーカーが発現していることが分かった。
これらの結果は、産卵直後のゼブラフィンチ胚(ステージ6〜8)とニワトリ胚(ステージ10〜11)には、それぞれナイーブ型とプライム型の多能性幹細胞が存在することを示唆している。このことは、これまで哺乳類の発生で知られていたナイーブ型からプライム型への遷移が、羊膜類全体で保存されている可能性を示唆している。Ladher特別主幹研究員は、「ゼブラフィンチを用いることで、マウスES細胞と同様のプライム型多能性幹細胞を単離することができるかも知れない。動物種を超えて初期胚における多能性幹細胞の維持・機能のメカニズムを調べたり、胚葉形成の進化について研究することができそうだ」と今後の展望について語った。
なお、彼らは今回の研究を行なうにあたり、ゼブラフィンチを飼育する際の食餌や明暗期、温度、つがいの作り方などを検討し、有精卵を安定的に得られる飼育法を確立した。その結果はGenesis誌に10月1日付けでオンライン先行発表され、ゼブラフィンチがニワトリやウズラを補完する初期発生の研究モデルとして有用であることを示している。
掲載された論文 | Characterisation of the finch embryo supports evolutionary conservation of the naïve stage of development in amniotes |
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Zebra finch as a developmental model |