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ニワトリの初期発生から見えた脊椎動物に共通のメカニズム

2015年04月15日
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ニワトリは卵生で胚操作が容易なことから、発生研究には古くから用いられてきた。しかし、受精卵が輸卵管を通過しながらカルシウムを沈着させて殻をまとい、産み落とされるまでの約25時間の胚発生については、未だ多くが謎に包まれている。魚やマウスでは、受精直後の初期卵割過程がその後の形態形成や細胞運命決定に大きな影響を与えることが知られているが、受精直後から産卵までの「空白の時間」、鳥類胚はどのような発生過程をたどるのだろうか。

理研CDBの永井宏樹テクニカルスタッフ(初期発生研究室、Guojun Sheng室長)らは、輸卵管内のニワトリ胚の発生様式を詳細に観察し、他の脊椎動物の初期発生との共通点を多数見出した。この研究はライフサイエンス技術基盤研究センターの米村重信チームリーダー(超微形態研究チーム)との共同で行われ、英科学誌Development電子版に3月5日付で公開された。

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  2. (左)EGK-I~Vのニワトリ胚の電子顕微鏡写真。卵割が進むにつれ細胞が細分化されていく。
    (右)断面のイラスト。胚盤葉中心部の細胞膜形成が完了した細胞(blastomeres)(青)が細分化するとともに胚下腔が拡大していく。

1970年代、Eyal-GiladiとKochavの2人が光学顕微鏡観察による形態的特徴に基づき制定したニワトリ初期胚のステージ分類(EGK分類)によれば、受精直後から産卵後(原条形成前まで)の発生は14のステージに分類され、産卵前の胚はEGK-I~IV、産卵直後の胚はEGK-Xにあたる。一方、1990年代にはEtchesらが電子顕微鏡を用いてEGK分類後半(EGK-IV以降)のニワトリ胚の超微細構造を観察することに成功した。そこでまず研究チームは、ニワトリに負担を与えない腹部マッサージ法を用いて輸卵管から受精卵を採取し、光学および電子顕微鏡を用いてEGK分類前半(EGK-I~V:受精後~約8時間)のニワトリ胚を詳細に観察し、その形態的特徴を探った。

EGK-Iでは動物極側の卵黄表面(胚盤)に深さ約50~100μmの分裂溝が複数生じ、細胞区画(開いた細胞:open cell)を形成する。EGK-IIでは、中心部付近に大きさの不均一な細胞膜形成が完了した細胞(閉じた細胞:closed cell)ができた。EGK‐IIIになると中心部の細胞が急速に分裂し、卵黄細胞との間に胚下腔と呼ばれるすき間ができた。その後、中心部の細胞はさらに分裂、細分化し、EGK-IVでは辺縁部が1細胞層なのに対して中心部では3細胞層となり、胚下腔もさらに拡張していた。そしてEGK-Vになると最辺縁の一部を除いたほぼ全ての細胞が細胞膜形成を完了し、中心部では4細胞層となった(胚盤葉)。また、胚下腔が拡張し、最辺縁部を除いて、胚盤葉と卵黄細胞を明確に分離していた。

研究チームは次に、発生初期に起こる重要な2つの現象に着目し、他の脊椎動物との共通点を探った。1つ目はzygotic gene activation(ZGA)だ。受精直後の胚は卵に蓄積された転写産物を発生の制御に用いるが、ZGAが開始すると胚の持つ遺伝子が活性化され、胚自らが発生を駆動するように制御モードが切り替わる。この現象は細胞のエピジェネティックなリプログラミング機構に密接に関わるとされるが、それがいつ、どのように起こるのか、鳥類では調べられていなかった。そこでニワトリ胚を詳細に解析すると、ZGAはEGK-II後期からEGK-III初期(64-128細胞期)にかけて起こることが判明。卵黄が極めて少ないマウス(哺乳類)は8細胞期、卵黄豊富なカエル(両生類)やハエの胚は128-256細胞期、鳥類と同じく卵黄豊富な端黄卵のゼブラフィッシュ(魚類)は128細胞期にそれぞれZGAが開始することから、ニワトリのZGAは魚類などの卵黄豊富な胚に共通する分子機構が規定している可能性が考えられる。

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  2. EGK-VIII/IXのキンカチョウ胚。胚下腔との境界付近にYSLが形成されている(白矢印)。

2つ目は、端黄卵の胚に特有の現象、卵黄合胞体層(yolk syncytial layer:YSL)の形成だ。ゼブラフィッシュを用いた研究から、YSLは卵割期に胚盤葉と卵黄細胞の接触面付近に形成され、胚盤葉細胞のダイナミックな集団移動に寄与することが分かっているが、鳥類胚におけるYSLの存在は未解明だった。そこで産卵前および直後のニワトリ胚を詳細に探索すると、EGK-V~XIにYSLの存在を確認。さらに他の鳥類胚(キンカチョウ、ウズラ)についても観察したところ、ニワトリと同時期にYSLが形成されていることがわかった。このことから、YSLの形成は鳥類と魚類に共通する発生現象であることがうかがえる。

これまで産卵以前のニワトリ初期胚をここまで詳細に記述した例はなく、今回の成果は、今後のニワトリ、ひいては鳥類の発生初期の研究の基盤となるだろう。「ニワトリ胚のごく初期の発生過程に見られるいくつかの現象は、ゼブラフィッシュ胚と非常によく似ています。このように種を超えて保存されている特徴は、複数の種が全く異なる進化の過程を経て同様の形質を獲得する『収斂進化』の結果なのか、それとも、脊椎動物の初期発生を制御する分子機構と細胞の形態形成が密接に結びついているために種を超えても変化できなかった『進化的制約』の表れなのか。興味は尽きません。」と、Sheng室長は語った。

掲載された論文 http://dev.biologists.org/content/142/7/1279.long
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