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大きな図体を折り曲げる – 巨大カドヘリンの不思議な戦略

2014年11月11日
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カドヘリンは細胞膜を貫通するタンパク質で、細胞同士を接着させるために重要な働きをしている。動物の多細胞体制の根幹を担うだけでなく、組織形成や神経回路形成など、発生の様々な場面で重要な役割を果たす。カドヘリンの細胞外領域は棒状をしており、その先端部分を介して隣接細胞のカドヘリンと結合し、細胞を接着させる。カドヘリンには多様な種類があり、FatおよびDachsousと呼ばれるカドヘリンは、互いに結合し、細胞の平面内極性や増殖を制御している。これら2つのカドヘリンは、標準的なカドヘリン(クラシカルカドヘリン)と比べて細胞外ドメインが極端に長く、どのようにして細胞間隙に収まっているのか謎だった。

理研CDBの塚崎克和研究員(高次構造形成研究グループ、竹市雅俊グループディレクター)らは、FatおよびDachsousの巨大な細胞外領域が折り畳まれ、細胞間隙に収まる仕組みを明らかにした。この研究成果は米科学誌PNASに10月29日付けでオンライン先行発表された。

  1. Fat4(左)とDachsous1(中央)の電子顕微鏡像。
    いずれもN末端側は真っ直ぐ伸びるが、C末端側は折れ畳まっている。
    右は、弾性ネットワークモデルによって構築されたFat4(赤)とDachsous1(青)の3次元構造。

クラシカルカドヘリンの細胞外領域は、ECドメインと呼ばれる単位がつなぎ目を介して5回繰り返す構造をとっている。このつなぎ目はCa2+と結合するCBM(Ca2+ binding motif)と呼ばれるアミノ酸配列を有する。CBMにCa2+が結合すると細胞外領域が伸びた構造になり、細胞接着を引き起こすが、Ca2+がないと細胞外領域が不定形化し、細胞接着能を失う。一方、FatとDachsousはそれぞれECドメインを34個、27個持っており、極端に長い。

塚崎らは、哺乳類のFat4とDachsous1を精製して電子顕微鏡で観察したところ、細胞膜から遠いN末端側は真っ直ぐ伸びているものの、細胞膜に近いC末端側は複数箇所で鋭角状に折れ曲がっていることを発見した。そこで、これらのカドヘリンのアミノ酸配列を詳しく調べると、C末端側の複数のCBMに変異が入っており、Ca2+と結合できない可能性が示唆された。

そこで、クラシカルカドヘリンの一つEカドヘリンのCBM1カ所を、Fat4の変異CBMに置き換え電子顕微鏡で観察したところ、置換部分に折れ曲がりが観察された。さらに、ゲル中の移動度を計る実験を行ったところ、変異CBMを持つEカドヘリン、及び、Ca2+非存在下の野生型Eカドヘリンは、Ca2+存在下のEカドヘリンよりも移動速度が低下することがわかった。このことは、変異CBMがCa2+と結合できなくなった結果、細胞外ドメインに変形が生じていることを支持していた。

さらに彼らは、Eカドヘリンの構造について、弾性ネットワークモデルによるコンピューターシミュレーションを行った。CBMに変異を導入すると、その箇所における折れ曲がりの自由度が増大し、電子顕微鏡の観察結果と一致することが判明した。この手法をFat4とDachsous1に適用することにより、電子顕微鏡像と合致する立体構造モデルを作出することにも成功した。また、別の実験により、Fat4とDachsous1の結合には、N末端側の4つのECドメインだけで十分であり、C末端側が折れ曲がっていても結合に関係がないことが示唆された。

生体内での構造を調べるため、培養細胞や組織を用いた解析も行った。Fat4とDachsous1をそれぞれ強制発現させた細胞を共培養すると、これら2種類の細胞が接触する面において、密着結合のすぐ上にFat4-Dachsous1の結合が形成されていた。電子顕微鏡で詳しく解析すると、Fat4-Dachsous1結合が存在する細胞膜間隙は47 nm程度で、弾性ネットワークモデルによる折れ畳み構造がうまく当てはまるサイズだった。さらに、マウス胚の脳神経上皮におけるFat4-Dachsous1による細胞接着を観察し、細胞膜間隙が同様のサイズであることを確認した。

前述の通り、カドヘリンは通常Ca2+を必要とする。しかし、Fat4、Dachsous1の場合、細胞外領域の一部がCa2+結合能を失うことでコンパクトに折れ畳まり、クラシカルカドヘリンが形成する細胞間接着に比べ、せいぜい2~3倍の大きさの間隙しか持たない接着構造が形成されることが明らかになった。竹市グループディレクターは、「なぜ、Ca2+結合能をわざわざ失ってまで折り畳まねばならないような巨大な構を持つのか、不思議です」と話す。また、「興味深いことに、FatとDachsousの大きさ、変異CBMの位置は、隔たった動物種間で保存されています。今回明らかにされた折り畳みの仕組みは、これらの分子の生理的な機能と深く関わっているに違いありません」と語った。

掲載された論文 Giant cadherins Fat and Dachsous self-bend to organize properly spaced intercellular junctions
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