発生・再生研究に新たな風を吹き込むCDBの若手研究者5人がこの日集った。30年後に何を見据えて研究しているのか、生命科学が世の中にどのようなインパクトをもたらすのか、それぞれが描く発生・再生研究の未来像を語った。
上田(進行役)
今日は発生生物学の未来について、また将来、生命科学によって世の中がどのように変化するかを考えようということで、皆さんにお集まりいただきました。まずは自己紹介からはじめましょうか。
斎藤
哺乳類の生殖細胞を研究している斎藤です。体細胞とどこがどう違うから、生殖細胞だけが一個体をつくれるのか、その背景にある生殖細胞のゲノム調節機構とはどのようなものか、そういったことを理解したくて、まずは生殖細胞が発生過程で生まれる仕組みから研究しています。
工樂
工樂です。遺伝子や分子のレベルで進化を考える研究をしてきました。非モデル生物、つまりまだあまりよく研究されてない生物の遺伝子の配列を調べて、分子系統樹を描いたりしていました。CDBに来てからは、発生プログラムの変化が、どのように生物の形態、つまり形の進化に影響を与えてきたのかを分子レベルで探る研究をしています。
小林
小林です。大学では応用数学を学びました。その名の通り、応用しなければいけないのですが、細胞の中で遺伝子や分子がつくるネットワークが、どのようにして生命現象として機能を発揮するのか、そういうことを理論的に説明できないかと思い、研究をしています。今は理論と実際の実験を両輪でやっています。
若山
自然には子供が生まれない状況から子供をつくること、それが僕の研究室の共通のテーマです。不妊マウスから子供をつくる、体細胞から子供をつくる、そういったことです。そのためには、斎藤さんが研究しているように、体細胞と生殖細胞がどう違うのか、受精によって発生がどうやって開始するのか、といったことを分子レベルで調べるのも重要ですが、僕のラボは、マイクロマニピュレータで核移植をするテクニックの開発・改良をメインにやっています。そういう意味では、上田さんのところと同じように少し異端かもしれませんが。
上田
いやいや、王道だと思っていますが(笑)。私は、複雑で動的な生命現象がどのような遺伝子ネットワークの機能に基づいているのか、ということを理解したいと思っています。具体的には体内時計を構成する遺伝子をモデルに、転写ネットワークが発現リズム、そして生体リズムを生み出すメカニズムを研究しています。ゲノムワイドな発現解析とバイオインフォマティクスを効果的に組み合せる技術開発も、私の研究室の特徴です。
上田
今、皆さんのお話しを聞いて、色々な視点から研究をされているので、今日は面白い議論になりそうです。いきなり30年後というのも難しいかもしれないので、まずはここ5年、10年で何が大事なテーマになりそうでしょうか。
斎藤
再生研究では、幹細胞の「培養」がとても大事になってくると思います。体の中には色々な幹細胞があって常に新たな細胞を供給してることが分かってきましたけど、ちゃんと培養されている幹細胞は少ないですよね。例えば、皮膚に関する病気は果てしなくあるわけですが、皮膚の細胞一つとっても、純粋に、均一に培養された例はないと思います。やはり今後の再生医療を考えると、こういった幹細胞を一つひとつ、均一に培養することが大事だと思います。
上田
そもそも均一であることって出来るんですかね。発生というのは基本的に、均一な状態から不均一化、多様化していく現象ですよね。
斎藤
均一のレベルにもよりますが、臨床応用に必要なレベルでは僕は出来ると思います。きっと今はまだその方法を知らないだけで、培養条件とか、適切な環境を与えれば、ほとんどの幹細胞は培養できるようになるんじゃないかと思います。やはり、ES細胞に頼らない再生医療という意味でも、そういった幹細胞を培養するのは重要ですし、着実に研究をすればきっと可能だと思います。
上田
なるほど。それでは小林さんにお聞きしたいのですが、数理的な観点からみて、発生の「本質」を理解するというのは、どういうことだと思いますか。つまり、今は発生現象に関わる色々な分子や因子が分かってきたわけですが、それで本当に発生が分かったことになるのでしょうか。
小林
分かった、という気になるには、やはり理論モデルが必要だと思います。ただし、今最前線で研究されているような現象はまだ知識を蓄積する段階で、すぐに理論モデルはつくれないと思います。まずは、昔から研究されて、実験で定量的なデータがある程度揃った現象について理論モデルをつくる、それがここ5~10年で出来ることかと思います。
上田
若山さんはどう思われますか。近い将来では何が分かるでしょうか。
若山
実は、何かを分かることを僕は目的にしていません。僕らがやりたいのは、「分かった」ではなく「できた」ということ。例えば昔できなかったことでも、最新の技術を使えばできるかもしれない。常識的にできないと思われていることを覆したい、そんなモチベーションで研究しています。
上田
「できた」と「分かった」は違う訳ですね。
若山
「分かった」ということの前に「できた」ということがあって、できたかどうかということが、「分かった」につながると思う。目的と全然違う結果がでたり、あり得ないような結果がでた時に、なぜそんなことが起きたのかを研究することで、生命のメカニズムが「分かった」ということになる。そんな新しい現象を見つけることが楽しいと思っています。実は5年後のことなんか、あまり考えない(笑)。
上田
そのスタイルは興味深いですね。レンスキーという研究者がいて、進化の研究をしたくて、20年間、大腸菌をひたすら毎日継代培養していた。最初始めたときはクレイジーと言われたけど、今は最先端になった。20年間あるからもう誰も追いつけない。でも若山さんの場合は、やはり、マイクロマニピュレーションという若山さんにしかできない技術があるから、ということではないでしょうか。
若山
僕だけではなく、僕のラボに来れば技術を覚えてできるようになる。だから世界で初めてのことを試せる。それが僕のラボの方針です。
上田
つまり「芸術」と「技術」と、二つの立場があり得て、誰にもできないことをやるアートの立場と、誰もができてこそ広まるというテクノロージーの立場があると思うのですが、そこはどう感じていますか?
若山
それは両方正しいと思っています。ぼくらは世界で一番すごいテクニックをもちたい、それで勝負したいと思っています。しかし、だれも真似できなかったら、再現性がない。再現性がなかったら、結局、価値がない仕事になってしまう。しばらくは新しい技術を独占して、いい結果を出す。その後は技術をみんなに広めたいという気持ちがあります。実際に私のラボには世界中から技術を習いに来ています。
斎藤
やはり、若山さんのようにテクニックをメインに据えて「できる」ということを主眼に置く研究者と、一方で、もっとクラシカルにメカニズムから攻める人がいて、それが上手く情報を交換し合ってコンビネーションで進むと、もっと色々な研究が花開くんでしょうね。
上田
その通りですね。では、ここ5~10年でできたらすごい、と思うことはありますか。
斎藤
体細胞を試験管の中でちゃんとした機能をもった卵子にする、ということは一つの目標でしょうか。いったん分化した卵子が、受精によって再び一個体をつくりあげる、言い換えれば、ゲノムの状態が初期化されて全能力が引き出される、そのメカニズムを理論的に解明できれば、皮膚といった普通の体細胞だって卵子にすることができるかもしれない。
若山
僕らの目標の一つは、クローンマウスの成功率を上げることです。今、成功率は最高で5%ぐらい、子供が誕生する確立は低いんです。普通の受精卵の発生率が6割ぐらいだから、クローンもそのくらい成功率が上がれば完成されたテクニックといえます。誰かが大きなブレークスルーを起こす可能性はありますね。
上田
一方で進化というのは、まだ実験になかなか乗せにくい分野という気がするのですが、生命の多様性だとか、なぜこんなに複雑なシステムが進化してきたのか、というのは非常に重要なテーマですよね。
工樂
確かにそうですね。進化も仕組みを知るという以前に、ヒトやほかの動物も含めて、今いる生物の間で何がどう違うのか、まずゲノムを比べてきっちり知る段階だと思うんです。次の5年で非モデル生物のゲノム配列もデータベースとして整備されてくると思います。その時に、どこに注目して比べるのか。その比較すべき生命現象の一つが発生ですが、その中のさらに自分の注目する遺伝子を調べてみる。そして、遺伝子がどう違い、それが形態の進化にどうつながっているのかを探る。そういう方向性を思い描いています。
上田
発生システムがどう進化してきたか、ということですね。
工樂
そうですね。例えば、ヒトゲノムはだいたい解読されていて、遺伝子が何個ありましたと言うけれども、いざ遺伝子という部品を渡されて「ヒトゲノムをつくってみなさい」と言われてもできないわけです。それは、ヒトが進化の過程で色々な段階を経てきたからで、その歴史が、ヒトゲノムに特徴的な遺伝子発現を可能にしたという部分がありますから。
上田
斎藤さんの視点はいかがですか。例えばハエと哺乳類では生殖細胞形成はだいぶ違うようですが、生物間の比較は重要だと思われますか?
斉藤
もちろん重要ですが、生殖細胞の本質的なところはまだまだ謎が多くて、本格的な生物間の比較や進化の研究はこれからですね。進化とは何か、生命とは何か、それを考えるヒントとなるような、ある生物にしかない神秘的な現象や、逆に生物間で一般性の高い現象が、生殖細胞にはまだ隠れているのではないかと思います。
上田
なるほど。そういった観察、比較するというアプローチがある一方で、もしも細胞を人工的につくることができれば、それを使って進化の研究が俎上に乗ると思うんですが。
斎藤
間違いなく、最高のフロンティアのひとつですね。
工樂
それは自分が進化について研究する上で信じて疑わないことです。あまり大声で主張しないようにしていますが(笑)。それにゲノムの比較から見えてくるものは進化の問題にとどまらないと思います。個々の生物を理解する上でも進化の視点は一石を投じうるはずです。
上田
発生研究にも、「つくる」という視点がもっとあってもいいと思います。発生システムを解析していくというのも大切ですが、人工的につくるという視点。
斎藤 そうですね、細胞から組織や臓器を試験管内で構築するという再生研究はそれに近いですよね。でも平面状の組織はつくれても、色々な種類の細胞が混ざって立体的にオーガナイズされた臓器、つまり腎臓や肝臓をつくるっていうのは、もう少し先ではないでしょうか。
斎藤
そうですね、細胞から組織や臓器を試験管内で構築するという再生研究はそれに近いですよね。でも平面状の組織はつくれても、色々な種類の細胞が混ざって立体的にオーガナイズされた臓器、つまり腎臓や肝臓をつくるっていうのは、もう少し先ではないでしょうか。
上田
結局、発生の形づくりがどこまで分かるか、というところに戻ってきますかね。この遺伝子が欠損するとこの器官ができない、というところからもっと先にいって、メカニズム的に分かるようになるんでしょうか。つまり、均一なものが不均一化するという過程は、理論的に分かるのでしょうか。
小林
非対称分裂のように、細胞が不均等に分裂して2つの異なる細胞になるとか。
上田
非対称分裂のように1から2になる過程、つまり差が生じるしくみというのは、突き詰めていけば理論的に分かる気がします。でも、臓器形成のような、より高次な形をつくる、つまり2からnになるメカニズムっていうのは未だほとんど 見えてこない。
小林
差ができる、できないの仕組みは、数学的には対称性やぶれのような形で昔から研究されてきましたよね。問題はいかに実験から得られた分子的な知見を数学的な概念と結び付けていくか、だと思います。しかし、均一なところから差が生じた後に、より複雑な組織化が起きる仕組みはまだまだこれからですね。
若山
理論で分かるという目的をさておけば、つくること自体は難しくないでしょうね。例えば、脾臓ができない変異マウスがいますが、発生の初期に正常なES細胞を外から注入してやると、そのES細胞だけからできた脾臓がつくられる。つまり、マウスの体を借りてES細胞から脾臓をつくっているわけです。再生医療の実現という意味では、患者さんは待ってくれませんから、そういう視点も必要かもしれません。
上田
仮に他の生物の体を借りてヒトの臓器をつくるとした時、腎臓や脾臓ならともかく、脳ができたらどうしますか。つまり、一つの視点として倫理的な問題はどう考えますか。臓器の話に限らなくても、発生・再生研究の先にある応用を考えた時に。
斎藤
僕のような生殖細胞の視点から言うと、やはり、子孫ですよね。臓器移植などは子孫に影響が及ばないので、それほど大きな問題ではないと思うのですが、例えば、僕はちょっとハゲやすい遺伝子のタイプだから、子供はハゲないように遺伝子を操作しようとか(笑)。そういう人が出てくる可能性もある。子孫へ影響を及ぼすような遺伝子操作はしないというのが一つの考え方ですね。
若山
しかし、遺伝病の人には生殖細胞や胚の段階で遺伝子操作をしていいのか、という問題もありますよね。
上田
どこを正常とするかは、ある意味、主観的な部分があるじゃないですか。どこに線引きをするべきでしょうか。
斎藤
難しいですね。子孫へ影響を及ぼす操作はしない、というのが個人的な考え方ではありますが。
上田
しかし、脳だとか、かなりその人がその人たる由縁の臓器、それが影響を受ける、さらにはリプレイスされていくとなると、倫理もさることながら、自分とは何か、そういう問題になってきますよね。
小林
精神疾患の薬物治療や、外科的な治療も既に行われているわけですし、具体的な線引きができないなかでどうするのか、ということですよね。
斎藤
難しい問題です。そのステップステップで間違いなく、いろいろな議論は重ねられるはずだけれども。
上田
こんなことができそうだ、という段階で、社会で話し合うことが大切ですね。生命科学が大きなインパクトをもっている以上、それに科学や研究がすたれないためにも、社会に受け入れられる形で研究を進めていくことが必要ですね。自分とは何か、人とは何か、生命とは何か、という根源的な問題に関わりますから。
上田
少し話題を変えて、今、世界的に見て日本の研究レベルはどうなんでしょうか。発生分野はそれなりに強いという話もあるようですが。
斎藤
倫理がないからじゃないですか。
上田
ちょっと待ってくださいよ(笑)。
斎藤
冗談です。よくいわれるのが、ところどころに優秀な先生がいて高いピークはあるけれど、裾野が狭いので力強くない。全体的に底上げするパワーがまだ弱い。
小林
役に立ちそうな研究しかしていないということですか。
斎藤
そうですね。応用とか考えずに、何の役に立つか分からないけど純粋な興味で研究している人の層が分厚いと、ブレークスルーをもたらすような思わぬ発見が出てきますよね。
上田
それは国や民族性の違いもあるのでしょうか。
斎藤
例えばヨーロッパでは、どのラボにも10カ国くらいの人が常にいます。それに比べて日本では、日本人がほとんど。そういう均質さが欧米に比べると間違いなくありますよね。それはそれで利点があるわけですが、均質だと、ところどころにピークがあっても多様性が生まれにくい。日本も、世界中から優秀な人が集まってくる環境になればいいと思う。
上田
そういった人の流動性という意味では、異分野交流の面はどうですか。
小林
日本のなかでも、残念ながら異分野交流はあまり進んでいませんね。理論屋からみても、本当は生物の実験をする人と議論しながら、理論モデルをどんどんつくり変えていくのが楽しいはずなんです。でも、実際にやるとなると大変。相手の分野も全部分からなければいけないし、自分の分野の問題もきちんとやっていかなければいけない。だから、一つの理論モデルができてしまったら、理論屋の中だけで、そのモデルを使って研究を進めてしまう傾向がありますね。
斎藤
日本でも異分野交流はどんどん始まってるし、遅れているというほどではないと思います。ただ、ヨーロッパに留学していて思ったのは、共同研究が進むスピード、これは格段に違う。
小林
一緒に何かやろうと思ったとき、これを知りたい、これをやりたいというモチベーションの共有が大事ですよね。それには、異分野やほかの研究室の人ともっと気軽に話をする機会を増やさないといけませんね。
若山
異分野交流もいいかもしれないけど、オタクの集まりで、同じ趣味の人間が集まるのも楽しいじゃないですか。一つのテーマで研究室が沢山集まったらどういうインタラクションがあるのか、それもちょっと楽しみではあります。
上田
もう一つは、少数の人たちがあるテーマに特化してやると、新しいものが生まれますよね。iPodの開発チームは、最初十数人でやっていたそうです。それで市場をあれだけ奪ってしまった。研究分野でも、新しいものが生まれるメカニズムを、もう少し組織論として意識してもいいですね。
上田
それでは最後に、30年後、もっと先でもいいですが、それぞれの究極の目標を聞かせてください。
若山
クローンはもともと畜産から出てきた技術なんです。だから、僕は酪農家の人たちの役に立ちたい。例えばクローン技術を使って神戸牛のようなおいしい牛肉を安くつくれるようにすること。そのために、農家で誰でもできるレベルまでクローンの成功率を上げて、技術を普及させたい、というのが夢です。
工樂
僕が進化の研究を始めた動機は突き詰めると、自分とは何か、を知りたいということです。それはおそらく一般の方にも興味があって、進化学はそれに対して、なるほど、と思える答えを用意できるかもしれない。僕自身は、進化学は「比べ方」を学ぶ学問だと思うんです。遺伝子であれ形態であれ、いろいろな生物を観察して記述するのは簡単ですが、比べることは意外と難しい。と同時に、そこにはいろいろと面白い発見がある。何が違って、何が同じなのか。その先に、ヒトとしての自分をより深く知りたい、そういうモチベーションでこれからも研究を進めたいです。
斎藤
生物の研究って、いま全く見えてないことが、ある日突然見えてきて、それが新たなパラダイムをつくる、ということがあるじゃないですか。だから究極の目標ってなかなか難しい。でも実際に、自分の子供を見ていると、すごいな、と思うんですよね。僕も嫁さんもだいぶ歳をとってきましたが、こんな年寄りから、なぜこんなにつるつるした子供が生まれてくるのかなと。そういう意味でも生殖細胞は面白いと思っているので、そのメカニズムをロジカルに解明して、最終的には体細胞からちゃんとした機能をもった生殖細胞をつくることで、それを証明したいなと思っています。
小林
今は、実験と理論の間を橋渡しする境界領域にいて、いろいろな知見を蓄積していきたいと思っています。理論をやっていると、「分かった」という気になるのが大事なんです。しかし、100個の要素があるシステムを見せられたら、分かった気にならないですよね。多分10個くらいに分けて体系的に階層化しないと分かったと思えない。そうすると生物のような複雑なシステムが分かるかというと、多分無理だと思います。それだったら、分かる気になるような方法をつくれないか。それには、今、アメリカなどで盛んに行われている脳とコンピュータをよりシームレスにつなぐ研究が面白いかなと・・・。
斎藤
コンピュータ科学の究極の応用って何なんですかね。僕が思うのは、人間は個人の限界として、死ぬということがあるじゃないですか。もし、脳が自己そのものだとするなら、例えば脳をコンピュータで再構成して、完全にそちらに移せば果てしなく死なない。
小林
技術として、究極的にはあり得ますね。もちろん、倫理的な問題が別にありますが。まずは、少しずつシームレスになっていくと思います。脳で考えるだけでハードディスクに情報が入るようになる。次に、コンピュータで処理した情報も脳に直接つながる。そうすると、感覚とか認知とか、そういうことがもっと分かってくるかもしれない。
斎藤
しかし実際には、そういうSF的な方向よりも、健全路線でいくんじゃないかな。例えば遺伝子組み換え作物でさえ、社会の抵抗感は強い。もっと精神と体が一体化して、それを健全にしていこうという動きが強くなるのでは。基本的な健康のレベルを上げて、どうしても仕方のない病気は受け止めていく。自分が永遠に生きるというよりも、新たな子供ができて、その次もできて、命をつないでいくというほうを個人的には選びたいかな。
工樂
進化ですね(笑)。
上田
そうそう。そういう生命が従ってきたある種の法則にとても興味がありますね。個体をずっとサバイバルさせるのではなく、子孫を残してリニューアルしていくという。同じことが分子や細胞のレベルでも起きていて、しかもリニューアルするだけでなくて、分子から細胞ができたり、細胞から個体ができたり、シンプルなものから複雑なものへ発展していく。それは正に進化の過程でもある、そういう気がしています。
上田
今日はみなさんありがとうございました。私自身とても楽しみました。これからも、こういうカジュアルな雰囲気でディスカッションできる機会を増やしたいですね。