独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター

2013年9月18日


ニワトリ原腸陥入のメカニズムに新たな知見
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原腸陥入は動物の発生初期にみられる細胞運動で、体の構造の基本である内胚葉、中胚葉、外胚葉を導く。ニワトリなど鳥類の場合、からだの表面(外側)にあるエピブラスト(胚盤葉上層)の細胞が原条と呼ばれる部位まで移動し、ここで胚の内側へと落ち込み、内胚葉と中胚葉を形成する。エピブラストは上皮性の細胞から構成され、細胞同士が結合して基底膜の上に存在している。ところが、原条でエピブラストの細胞が胚の内側へ陥入する際には、細胞間接着の解離や基底膜分解が起こり、結果として運動性を獲得した間充織細胞に変化する。この一連の現象は「上皮−間充織転換(EMT)」と呼ばれ、原腸陥入を含む発生の多くの場面に関わると考えられているが、その制御のメカニズムは良くわかっていない。

理研CDBの仲矢由紀子研究員(初期発生研究チーム、Guojun Shengチームリーダー)らは、微小管結合タンパク質CLASPがエピブラストの上皮性の維持に必要であり、CLASPの発現低下は、EMTの重要なプロセスである基底膜分解を誘導することを明らかにした。この研究はJournal of Cell Biology 誌の8月号に掲載され、その表紙を飾った。


上:原腸陥入に伴うEMTの模式図。原条では基底膜が分解し、細胞が胚の内側へ移動する。下:原条でCLASPを強制発現させると(緑)、消失するはずの基底膜(赤)が異所的に安定化した(黄矢印)。


これまでの培養細胞を用いた研究では、CLASPが細胞皮質で微小管の一端を捕捉し、その密度を維持していることが示されていたが、その生理学的意義や発生過程における役割は明らかにされていなかった。一方仲矢らは、ニワトリ胚の原腸陥入時のEMTにおいて、エピブラスト細胞の基底面に捕捉された微小管の動態が、基底膜の維持や分解と関わりがあることを示していた。そこで今回、CLASPが微小管の制御を介して原腸陥入時のEMTに関与する可能性を探った。

まず、CLASPの発現を調べると、大部分のエピブラストの基底面で発現していたが、原条ではその発現が低下することが見いだされた。そこで、原条でCLASPを強制発現させたところ、本来分解されるべき基底膜が残存することがわかった。逆に、原条以外のエピブラスト細胞でCLASPを発現抑制すると、基底膜が異所的に分解した。次にCLASPの微小管に対する役割を探ったところ、LL5というタンパク質と共同して微小管を細胞の基底面へ捕捉することがわかった。以上の結果は、細胞の基底面でCLASPが微小管捕捉を介して基底膜の安定化に関わり、また、原条ではこの機構の消失が、基底膜の分解を惹起することを示唆していた。

では、細胞内のCLASPがどのようにして細胞外の基底膜を安定化しているのだろうか。仲矢らは、膜貫通タンパク質であるジストログリカンに着目した。ジストログリカンは、細胞外では基底膜と結合し、細胞内では他分子と複合体を形成して細胞骨格タンパク質と相互作用することが知られていた。今回仲矢らが、エピブラスト細胞でジストログリカンを過剰発現または発現抑制すると、CLASPの実験と同様に、それぞれ基底膜の過剰な安定化または異所的な分解がみられた。また、ジストログリカンの基底面への局在がCLASPに依存していることや、実際に両者が細胞の基底面で結合していることも明らかになった。さらに、原条でEMTが起きる際に、CLASPと同様にジストログリカンの発現も消失していた。これらの結果は、CLASPと基底膜をつなぐ分子がジストログリカンであることを示していた。

今回の研究結果は、CLASPが、細胞基底面での微小管捕捉とジストログリカンとの結合を介して細胞外の基底膜を安定化し、エピブラストの上皮性の維持に貢献することを示していた。原条においては、CLASPの発現低下により基底面での微小管とジストログリカンの発現が消失し、これにより基底膜分解が開始されてEMTが進行することが考えられた。Shengチームリーダーは、「今後、CLASPを欠損するとなぜ基底膜が崩壊するのか、詳細を明らかにしたい。微小管による小胞輸送が阻害されることが一因かもしれない」と語った。発生過程で発見されたEMTは、現在、がん細胞の浸潤・転移やがん幹細胞様の形質獲得にも関与することが示されており、そのメカニズムの解明はますます重要になっている。


掲載された論文

http://jcb.rupress.org/content/202/4/637.long

 
 


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