独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター

2011年4月15日


生殖顆粒の形成メカニズムが明らかに
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生殖細胞は数ある細胞の中でも、次世代に遺伝情報を継承し、次世代の体をつくることのできる唯一の細胞である。このような生殖細胞が発生の過程で確実に形成されるように、生物は多様なメカニズムを備えている。線虫やハエ、カエルなど多くの生物では、受精卵の中に母方から受け継がれた生殖顆粒と呼ばれる構造が存在し、細胞分裂に伴ってこれを引き継いだ細胞が生殖細胞へと分化していく。生殖顆粒はRNAと多くのタンパク質からなる複合体だが、これがどのようにして形成されるのかは未解明のままだった。

理研CDBの花澤桃世研究員と米谷匡史研修生(発生ゲノミクス研究チーム、杉本亜砂子チームリーダー:現東北大学教授)らは、線虫C.elegansをモデルにした研究で、PGL-1とPGL-3と呼ばれるタンパク質が生殖顆粒の形成に必須の役割を果たしていることを明らかにした。これらのタンパク質が自己集合し、他の構成因子が集まる足場として機能しているという。この研究成果はThe Journal of Cell Biology誌の3月号に掲載されている。


線虫の4細胞期胚(緑:PGL-3、赤:GLH-1)。正常胚(上)の生殖系列細胞(右端)では、PGL-3はGLH-1と共に顆粒を形成する。PGL-3の自己結合ドメインを欠損させると(下)、PGL-3は生殖系列細胞および体細胞の細胞質に分散する。


線虫の生殖顆粒はP顆粒と呼ばれ、その構成因子として幾つかのmRNAと約40種のタンパク質が同定されている。このうち常にP顆粒に局在している因子として、GLH-1~4(ショウジョウバエのVASAの相同遺伝子)、PGL-1、PGL-3が知られる。今回、花澤と米谷らは、P顆粒をもたない哺乳類の培養細胞を用いることで、個々の構成因子の性質を探ることに成功した。

彼らがまず、14種類のP顆粒構成タンパク質を培養細胞に発現させたところ、PGL-1とPGL-3だけが単独で顆粒を形成できることが明らかになった。そこで、線虫の胚および成体の体細胞においてこれらの因子を発現させたところ、同様にそれぞれが単独で顆粒を形成することが確認された。これらの結果は、PGL-1とPGL-2は線虫の細胞内において自己集合する性質をもち、他の構成因子が集まる足場になっていることを示唆していた。

次に、実際にRNAや他の構成因子がPGL顆粒に取り込まれているか否かを調べた。その結果、PGL-3が自己集合した顆粒に、RNAや8種類のP顆粒構成タンパク質が共局在していることがわかった。さらに、PGL-1およびPGL-3の機能を欠損すると、P顆粒の形成が大きく阻害されることも確かめられた。また、GLHファミリーを欠損させた場合もP顆粒の形成阻害がみられた。GLH-1およびGLH-4の発現を抑制すると、PGLは集合するにもかかわらず、他の因子も含めた顆粒構造が維持できないようだった。

最後に彼らは、PGLタンパク質の機能部位を探った。その結果、PGLはN末端に自己結合ドメインを、C末端にRNA結合ドメインをもつことが明らかになった。前者は自己集合と顆粒形成に、後者はRNAのP顆粒への取り込みに必要で、どちらを欠いてもP顆粒の形成が阻害された。これらの結果は、PGLのようなRNA結合タンパク質の自己集合が、生殖顆粒の形成に必須であることを示している。

杉本チームリーダーは、「生殖顆粒の他にもRNAとタンパク質からなる顆粒は多く知られ、それらは遺伝子発現の調節に重要な役割を果たしています。今回明らかになった生殖顆粒形成の仕組みは、他の顆粒形成にも共通している可能性があります」とコメントした。



掲載された論文

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=
PubMed&dopt=Citation&list_uids=21402787

 


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