平成20年8月22日に、「科学と音楽の夕べ−生命への視線−」(独立行政法人科学技術振興機構主催、独立行政法人理化学研究所共催)が京都会館で開催され、800人を超える観客が詰め掛けた。このイベントは科学と芸術の融合を目指し、より幅広い層に科学研究の魅力を伝えることを目的として科学技術振興機構がシリーズで開催している。
今回は、竹市雅俊氏(理研 発生・再生科学総合研究センター長、グループディレクター)による科学講演と、高木正勝氏(映像作家、音楽家)によるコンサートのコラボレーションとなった。高木氏は事前に同センターを訪問して発生・再生研究の現場を見学し、細胞や生命現象から着想を得た新作「NIHITI(ニヒチ)」をこの日初めて発表した。
プログラムは中村征樹氏(大阪大学大学院准教授、現代思想文化)のナビゲートで進められ、最初に竹市氏による講演「発生の不思議、生命の神秘」が行われた。講演では、研究者が苦労を重ねて捕らえた発生現象の画像やムービーを用い、細胞の振る舞いや遺伝子の働きについて分かりやすく解説した。続いて両氏の対談が行われ、科学と芸術の接点について活発に意見が交わされた。研究の動機を高木氏に聞かれた竹市氏は、「花を見ても虫を見ても生命現象は美しい。その生命の原理を突き詰めていけば究極に美しいものに出会えるのではないかと期待して研究しています。手法こそ異なりますが、究極的な美しさを追い求めるという意味で私たちの基礎科学と芸術には大きな接点があるはずです」と答えた。また、「細胞の動きをみていると時にダイナミックで、時にリズミカルで、音楽を感じることがあります」とも。
続いて、高木正勝氏によるコンサートが開かれ(出演:高木正勝/映像演出・ピアノ、田口晴香、太田美帆、ヤドランカ/ボーカル)、Ceremony、Girls、NIHITI、Primoなど計8曲が美しい映像とともに演奏された。新作のNIHITIは「虹」の意で、高木氏は「研究者がさまざまな方法を駆使して細胞やその中の分子を見ようとしているのを知り、研究は見えないものを見ようとする行為だと思いました。僕は虹を見るのが好きで、何もないところに何かのきっかけで虹が浮かび上がるのを不思議に思います」と制作の思いを語った。
最後に竹市氏、高木氏、中村氏がステージに上がり、今回の試みを振り返った。高木氏は、「今までは頭や心で感じていましたが、発生研究のことを知り、‘細胞で感じる’という新たな感覚が自分の中に芽生えたように思います。何か圧倒的なものに出会ったとき、体の中の細胞一つひとつがざわめいているような感覚です。人間が太古の昔から進化してきたのなら、その記憶が細胞の中に眠っているのではないでしょうか」と話した。竹市氏は、「感動を与えるという意味では科学は芸術にかなわないと実感しました。私たちは、これから皆さんにもっと感動を与えられる研究をしたいと思います」と感想を語った。なお、このイベントの模様は1月10日(土)午後8時半から「サイエンスチャンネル」(スカパー! 12月より795ch)で放送予定(http://sc-smn.jst.go.jp/)。
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NIHITI ©Takagi Masakatsu |
Photo: Kazuhiro Tanda
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