独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2008年6月30日

初期造血における非赤血球細胞の発現プロファイルが明らかに

PDF Download

ニワトリ胚では他の脊椎動物と同様に造血が2段階で起こる。胚体外で最初に起こり、一時的に血液を供給する一次造血と、後に胚体内で始まり、生涯に渡って血液を供給する二次造血だ。これら初期の現象は、造血幹細胞の発生や機能を知る上で非常に重要な研究対象だが、この時期の胚の小ささ故に包括的な研究は難しい。一次造血から二次造血に移行する時期のニワトリ胚は比較的大きく、十分な実験材料が得られるため、血液発生の研究基盤になり得る。

理研CDBのBrendan McIntyre研究員(初期発生研究チーム、Guojun Shengチームリーダー)らは、二次造血が始まる発生4〜6日目のニワトリ胚を用い、血液細胞における遺伝子発現を包括的に解析した。その結果、血液細胞のうち非赤血球の細胞集団に、造血幹細胞や血液前駆細胞、リンパ系前駆細胞が含まれていることが明らかになった。これまで用いられていたES細胞などに加え、この細胞集団が血液研究の重要なモデルになり得ることを示している。


血液循環系(写真は発生5日目のニワトリ胚)は複雑で、胚や尿膜、卵黄嚢に及んでいる。血液細胞のトランスクリプトーム解析によって、非赤血球細胞に造血幹細胞が含まれることなどが明らかになった。


彼らはまず、発生4日目および6日目のニワトリ胚から血液を採取し、遠心分離によって重い赤血球と軽いその他の血液成分とに分けた。さらに、FACSや古典的血液学的染色法を用いて、赤血球が全て取り除かれた細胞集団を得ることに成功した。赤血球とこれらの非赤血球細胞における遺伝子発現をRT-PCRによって解析したところ、非赤血球細胞のみが造血幹細胞のマーカーであるCD34を発現していることが明らかになった。これは非赤血球の細胞集団のみが造血幹細胞の供給源であることを示唆していた。

次に彼らは、Affimetrix社のジーンチップを用いて、2つの細胞集団の発現量解析を行なったところ、非赤血球細胞集団のみで発現量が上がっている多くの遺伝子が同定された。これらの中には造血幹細胞に関係するシグナル伝達や細胞‐マトリックス間結合、ギャップ結合を介した情報伝達などを担う遺伝子も多く含まれていた。これらの造血幹細胞遺伝子に加え、骨髄系細胞やリンパ系細胞のマーカーの発現もみられ、この時期のニワトリ胚で既にリンパ系前駆細胞が分化していることが初めて明らかになった。これらの解析によって、6つの機能未知な遺伝子も同定されており、造血幹細胞の分化と機能のメカニズムに今後新たな知見が加えられることが期待される。

 

掲載された論文

http://www.biomedcentral.com/1471-213X/8/21/abstract/



Copyright (C) CENTER FOR DEVELOPMENTAL BIOLOGY All rights reserved.