FGFによる上皮細胞形態形成時の細胞骨格リモデリング |
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胚発生においては受精卵という一つの細胞が、卵割により急速に細胞数を増やし、同時に細胞の形を変え、様々な組織、器官が形成されていく。この時一つ一つの細胞の形の変化が組織・器官全体の形態形成にどのように関与していくのか、その制御機構は不明の点が多い。
聴覚と平衡感覚を司る内耳の発生過程では、外胚葉の一区画が窪み(陥入)、その窪みの上部が狭くなって袋のような耳胞構造を作る(下図)。この陥入、耳胞形成は内耳のみならず様々な器官の発生過程で起きる現象であり、この形成メカニズムは組織・器官の形態形成において各所共通の重要なイベントである。XiaoRei Sai研究員とRaj Ladherチームリーダー(感覚器官発生研究チーム、Raj Ladherチームリーダー)は、内耳の形態形成がFGFシグナルにより制御されることを明らかにした。この研究はCurrent Biology誌に7月に発表される。
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発生30時間ではまだ耳外胚葉細胞は平らなシート状だが(上)、
36時間では耳外胚葉の一部が形を変え陥入し始める(下)。
今回研究チームはこの現象にFGFシグナルが関与することを明らかにした。
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耳外胚葉は隣接する中胚葉からのFGFシグナルにより内耳になるべく運命が決定される。FGFシグナルを受けると、扁平に並んだ柱状の上皮細胞は上部が狭まった台形の細胞へと形が変わり、細胞が形態変化した部分は盆状のくぼみとなり、陥入が起こる。
FGFは上皮細胞に働きかけ内耳を誘導することが知られているので、それに続く上皮細胞の形態変化もFGFによって制御されているのではないかとLadherチームリーダーは考え、研究を進めた。
Sai研究員とLadherチームリーダーはまず外胚葉の内耳になる領域を摘出して解析を行った。その結果、外胚葉は内耳になるべく運命決定がなされた後も、中胚葉および神経外胚葉と直接コンタクトがないと正常に発生・分化が起こらないことが分かった。更に、FGFをしみこませたへパリンビーズを用いて特定の方向からFGFシグナルを供与したところ、耳板陥入にFGFシグナルが必要だと分かった。
細胞の形態は細胞骨格に制御されており、細胞が形を変えるには細胞骨格を再構築する必要がある。そこで研究チームは微小管とアクチンに着目して解析を行ったところ、微小管に変化は見られなかったが、アクチン繊維が基底部で徐々に消失していることが分かった。これはアクチンの重合が局所的に変化しているためと考えられる。そこでアクチン重合阻害薬を用いて実験を行ったところ、耳板の陥入が抑制された。次に、アクチン繊維の収縮やアクチンたんぱくの安定性に関与するミオシンIIに着眼点を変え解析を行った。ミオシンIIは制御領域であるミオシン軽鎖がリン酸化されると活性化されるが、リン酸化ミオシン特異的な抗体で検出したところ、耳板の基底部でミオシンがリン酸化されていることが分かった。ミオシンIIの活性を抑えると耳外胚葉の陥入は起こらず、このミオシンIIの活性は内耳の形態形成に必要であることが示唆された。さらにFGF阻害薬、またはFGF下流で活性化されるphospholipase C γ(PLCγ)の阻害薬で処理するとこのミオシンリン酸化が抑制されることが分かった。これらの結果からFGFによりPLCγが活性化してミオシン軽鎖がリン酸化されると、アクチンが基底部で脱重合し頭頂部で銃砲されて細胞の形態を変え、陥入を引き起こすと考えられる。
Ladherチームリーダーは「内耳形成において細胞の形態変化が内因性のメカニズムだけではなく細胞外からのシグナルによっても制御され得ることを示したのは、我々が初めて。耳板の陥入は神経管形成を始め様々な器官形成の際に起こる出来事であることを考えると、FGFなどの細胞外シグナルによる形態制御は内耳の発生だけではなくより普遍的なメカニズムである可能性もある。その点の解析も非常に興味深い。」と語る。
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