独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2007年11月30日


メチル化DNAの維持機構を解明

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DNAのメチル化は、一般的にクロマチン構造の変化や転写因子の結合阻害をもたらし、その領域に含まれる遺伝子の発現を抑制する。哺乳類の発生では、精子と卵子は高度にメチル化されているが、受精直後から胚盤胞期にかけてそのレベルが大きく低下し、その後それぞれの細胞系列で新たなメチル化パターンが確立される。これらのことから、DNAのメチル化は、細胞系列特異的な遺伝子発現パターンの確立、すなわち細胞分化に重要な働きをもつと考えらえる。しかし、一旦メチル化パターンが確立された後、細胞分裂に伴ってどのようにそのパターンが維持されるかについては、未解明のままだった。

理研CDBの岡野正樹チームリーダーと竹林慎一郎研究員(哺乳類エピジェネティクス研究チーム)らはマウスをモデルにした研究で、Np95と呼ばれるタンパク質が、DNAの複製部位で親鎖のメチル基を認識し、娘鎖のメチル化を誘導するメカニズムを明らかにした。この研究は、理研免疫・アレルギー科学総合研究センターの古関研究グループ、東北大学の三ツ矢研究グループとの共同で行われ、科学誌Natureに11月11日付けでオンライン先行発表された。

Np95はメチル化DNA依存的に複製部位に局在する:複製中期のマウスES細胞核において、DNAをDAPIで、複製部位をdig-UTPで、Np95をモノクローナル抗体で可視化した。メチル化修飾が消失しているDnmt1-/-Dnmt3a-/-Dnmt3b-/-のトリプルノックアウト(TKO)細胞では、Np95が複製部位に局在しない。TKO細胞に5me-dCTPを取り込ませてメチル化部位を導入すると、Np95は再び複製部位に局在した。

DNAのメチル化には、新たにメチル基を導入する「新規メチル化」と、DNA複製に伴ってそれを維持する「維持メチル化」の2種類がある。哺乳類では3つのメチル基転移酵素が知られ、Dnmt3aおよびDnmt3bは新規メチル化に、Dnmt1は維持メチル化に機能する。竹林らは最近、Dnmt1がDNAメチル化を認識してDNAの複製点に局在することを見いだしていた。(科学誌Molecular and Cellular Biologyに 9月24日付けでオンライン発表)しかし、Dnmt1がどのようにしてDNAメチル化を認識するのか、その分子機構については不明であった。

彼らは今回、メチル化DNAに結合するタンパク質Np95とDnmt1との関係について研究を進めた。まず、DNAを盛んに複製している細胞でNp95の局在を調べたところ、DNAの複製点でDnmt1と共局在していることがわかった。続いて、Dnmt遺伝子を欠損した細胞を作成して観察すると、DNAのメチル化が全く起こらないだけでなく、Np95が細胞全体に分散してしまっていた。そこで、複製中のDNA鎖の一方を人為的にメチル化すると、興味深いことに、Np95は再び複製点に局在した。これらの結果は、複製点で2本鎖DNAの一方のみがメチル化された状態が生じると、Np95がそれを認識し、結合することを示唆していた。

また、Np95を欠損したマウスでは、DNAのメチル化は起こらず、胚発生が途中で停止してしまうこともわかった。さらに、Np95を欠損した細胞を調べると、Dnmt1が複製点に局在できず、DNAの維持メチル化が起こらないことが示された。

彼らはこれらの結果から、Np95がDNAの複製点で親鎖のメチル基を認識し、Dnmt1を呼び寄せて娘鎖のメチル化を誘導する、というモデルを提唱している。受精に伴うゲノムリプログラミングと多能性の獲得、細胞分化は表裏一体の現象と考えられ、これらを制御するDNAメチル化の維持機構が明らかになったことは意義深い。

掲載された論文 http://www.nature.com/nature/journal/v450/n7171/abs/nature06397.html

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