独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2007年6月30日


間葉系幹細胞は神経上皮から生じる

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間葉系幹細胞(MSCs; mesenchymal stem cells)は成体内から採取でき、かつ再生医療に利用できる幹細胞として注目されてきた。さらに最近の研究で、間葉系幹細胞と近縁な関係にある成体内の前駆細胞が、内・中・外胚葉のいずれにも分化できる「多能性」を備えていることが報告され、研究者の関心を集めている。しかし、これらの細胞の成体内における振る舞いや、発生起源についてはほとんど分かっていなかった。

理研CDBの江良択実研究員(幹細胞研究グループ、西川伸一グループディレクター)らは、マウスをモデルにした研究で、発生過程で最初に生じる間葉系幹細胞の一部が、体幹部の神経上皮に由来していることを明らかにした。後に未知の供給源に取って代わられるという。この研究は神戸大学と共同で行われ、Cell誌に6月29日付けで発表された。

「間葉系幹細胞は既に再生医療で利用されているにもかかわらず、その発生起源についてはほとんど何も知られていませんでした」と西川グループディレクターは話す。「今回、間葉系幹細胞の発生経路の一つを明確に示すことができ、また、ES細胞からの高効率な誘導法を発見できたことはとても意義深いと思います」。

マウス胚体幹部で神経上皮由来の間葉系幹細胞が観察された。

江良研究員らは、ES細胞から間葉系細胞を誘導するための2つの方法を検討していた。一つはコラーゲンコーティングを施したシャーレを用いる方法で、もう一つはレチノイン酸の添加と、脂肪細胞との共培養を行うものだった。その結果、いずれの場合も間葉系マーカーであるPDGFRαを発現する細胞が誘導されたが、後者の方法を用いた場合は、増殖能力が維持され、脂肪細胞としての活性も前者と比較して10倍程度高いことがわかった。このことから、後者の方法を用いた場合のみ、間葉系の前駆細胞が維持されていることが示唆された。前者の条件は中胚葉性の細胞を誘導することから、間葉系幹細胞は非中胚葉性の細胞から生じることが示唆された。

そこで、細胞系列特異的なマーカーを用いて解析したところ、前者の条件では中胚葉性および内胚葉性の細胞が生じていた。一方で、後者の条件では、神経系マーカーを発現する細胞が確認された。神経系への運命決定を示すSox1をマーカーに用いた場合も、確かに神経系細胞の誘導がみられた。この条件で生じたSox1陽性細胞を維持培養したところ、これらの細胞の一部が次第にSox1や他の神経マーカーの発現を止め、代わりにPDGFRαを発現し始めることがわかった。すなわち、神経系から間葉系へ運命シフトが起きているようだった。

これらのin vitroで得られた結果が、in vivoにも当てはまるのか、彼らは検証を続けた。マウス9.5日胚の体幹部から細胞を採取し、3つのサブタイプ、Sox1(+)PDGFRα(‐)、Sox1(‐)PDGFRα(+)、Sox1(‐)PDGFRα(‐)、にソーティングしたところ、その結果はin vitroと一致していた。すなわち、Sox1(+)PDGFRα(‐)細胞は神経上皮に対応し、Sox1(‐)PDGFRα(+)細胞は神経系ではなく中胚葉系細胞に対応していた。また、Sox1(+)細胞だけが長期維持培養可能で、多能性の間葉系幹細胞に分化可能だった。間葉系細胞の起源を追跡したところ、その起源の一つは神経上皮に由来する体幹部の神経堤細胞であることがわかったが、これとは別に主要な供給源があるようだった。また重要なことに、PDGFRα陽性の間葉系幹細胞は、同じくSox1陽性の神経管から生じるオリゴデンドロサイト前駆細胞とは、明らかに別の経路で生じていた。

「発生過程における細胞の分化メカニズムを明らかにする上で、ES細胞の分化誘導の研究が有用であることを示したいと思っていました」、と西川グループディレクター。「今回と同じような手法を用いることで、他の重要な細胞の発生起源も明らかになればと考えています」。




掲載された論文 http://www.cell.com/content/article/abstract?uid=PIIS0092867407005399

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