独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2006年03月15日


SizzledはChordinの守り神 −背腹軸決定に新たな知見−

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体の形づくりを始めるにはまず、前後・背腹・左右の体軸決定が必要だ。体軸は発生の初期に多くの分子のせめぎ合いによって決められる。Bmp(Bone morphogenic protein)は、背腹軸決定において腹側化に働く重要なシグナル分子で、このBmpが抑制されると背側に特徴的な構造が誘導される。ゼブラフィッシュでは、腹側化を示す変異体の原因遺伝子として、Bmpを抑制する2つの遺伝子が見つかっている。ChordinとSizzled(Secreted Frizzled)だ。Chordinは背側で発現し、その変異体chordinoは腹側領域の拡大と背側構造の欠損を示す。Sizzledは腹側で発現するBmpに依存的して発現し、その欠損は、腹側領域が拡大した変異体ogonとなる。Chordinはアンタゴニストとして直接的にBmpシグナルを阻害することが知られるが、SizzledがどのようにしてBmpに抑制的なフィードバックを送っているのかは明らかでなかった。

理研CDBの日比正彦チームリーダー(体軸形成研究チーム)らは今回、SizzledがChordinを分解から保護することでBmpシグナルを抑制し、結果として腹側化を制限するメカニズムを明らかにした。ChordinとBmpの相対する勾配が背腹軸を決定するメカニズムに重要な知見を加えたと言える。この成果はNature Cell Biology誌に3月5日付けでオンライン先行発表された。

(左)今回明らかになったSizzledがBmpシグナルを抑制するメカニズム。
(右)Sizzled、Bmp1a/Tolloid-like1、Chordinをそれぞれ欠損するゼブラフィッシュ胚の表現型。

SizzledがChordin依存的にBmpの抑制に働いていることは以前から知られていた。そこで同チームの村岡修研究員らは、Chordinを切断して不活性化することが知られるTolloidファミリーメタロプロテアーゼとの関連に注目した。まず、Sizzledの存在下および非存在下におけるChordinの状態を調べると、Sizzledを過剰発現させた場合、Chordinタンパク質が安定化し、分解産物が減少することが分かった。そこで、体軸が決まる原腸形成の時期に発現している2つのTolloidファミリーメタロプロテアーゼ、Bmp1aとTll1(Toloid-like1)について、Sizzledとの結合能をin vitroにて解析した。すると、これらの分子どちらとも結合することが分かり、Sizzledが直接Bmp1aとTll1のプロテアーゼ活性を阻害していることが強く示唆された。SizzledはBmp1aとより強い結合を示したが、これはSizzledが、Tll1よりBmp1aをより強く抑制するというデータとも整合性がとれる結果であった。ogon変異体を用いた遺伝子関連解析も、Bmp1aとTll1がSizzledの生理的標的であることを示していた。また彼らは、Sizzledの様々な変異解析により、Bmp1aの阻害に必要な領域を解析したところ、それはまさにogonで変異の入っているシステインに富んだドメインだった。このドメインは、Sizzledに類似する分泌性Frizzled関連タンパク質においてはWntに結合することが知られるが、メタロプロテアーゼの抑制に機能しているのが示されたのは初めてであり、Frizzled関連蛋白質の新しい機能を提唱したことになる。

今回の結果は、腹側と背側をそれぞれ頂点とするBmpとChordinの勾配が適切に保たれる仕組みの一端を明らかにした。Sizzledは腹側に拡散してきたChordinを安定化させることでBmpの活性を抑え、腹側領域を適切な範囲に保っていたのだ。「BmpとChordinの勾配が背腹軸を決めるのは分かっていたが、それにしても、この勾配を実現するのになんと複雑な機構が進化したものか」と日比チームリーダーは驚きを語る。抑制の抑制が活性化を引き起こす。一つの目的を達するために組まれた複雑な正と負のフィードバックループを今後も一つひとつ紐解いていく必要がありそうだ。


掲載された論文 http://www.nature.com/ncb/journal/v8/n4/abs/ncb1379.html
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