中内胚葉を経た内胚葉の初期分化プロセスが明らかに |
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ES細胞は多分化能をもっているが、その分化を思い通りに誘導するのは簡単ではない。これを達成するためには、何よりも実際の発生過程について熟知することが重要であるが、実際の初期発生を調節する機構については分かっていないことが多い。マウスの3.5日胚は胚盤胞と呼ばれ、外側を包む栄養外胚葉と将来体をつくる内部細胞塊に区別される。内部細胞塊はまだ未分化な状態だが、原腸形成によって内・中・外胚葉へと最初の分化を遂げる。内胚葉の分化は少々複雑で、将来胚に取り込まれる胚体内胚葉(Definitive Endoderm)と、胚体外内胚葉をつくる臓側内胚葉(Visceral Endoderm)に分けられる。興味深いことに、胚体内胚葉の一部は、中内胚葉(Mesendoderm)と呼ばれる内胚葉と中胚葉の共通の前駆細胞に由来しているらしい。このバイポテンシャルな中内胚葉の存在は、線虫やアフリカツメガエルで確認されていたが、マウスを含む哺乳類ではその存在も分化プロセスも詳細は明らかでなかった。
今回、CDBの西川伸一グループディレクター(幹細胞研究グループ)らは、マウスES細胞から臓側内胚葉が、そして中内胚葉を経由して胚体内胚葉と中胚葉が分化するプロセスを遺伝子発現レベルで明らかにした。この研究により、これらの細胞の分化を区別してモニタリングすることが可能になり、それぞれに高効率な分化誘導条件の検討や、表面抗原を用いた分離精製が可能になった。この研究は2つの論文にまとめられ、Development誌の10月号とNature Biotechnology誌の11月27日付けオンライン版に発表された。
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マウスES細胞から中内胚葉を経て誘導された上皮細胞;E-cadherin(赤)、Foxa2(青)、Cytokeratin18(緑)を共発現している。 |
彼らはまず、マウスの初期発生において胚体内胚葉が出現する位置にグースコイド遺伝子(gsc)が特異的に発現することから、gscが中内胚葉マーカーになると想定した。そこで、gscの遺伝子座にgfp遺伝子をノックインしたマウスES細胞を作成し、ほぼ全ての細胞がgsc陽性(gfp陽性)になる誘導条件を確立した。さらに、様々な胚体内胚葉マーカーと中胚葉マーカー遺伝子を用いてgsc陽性細胞の分化をモニタリングしたところ、胚体内胚葉、中胚葉のいずれにも分化できるバイポテンシャルな中内胚葉細胞の存在が確認され、これらの細胞は、gsc+ E-cadherin(ECD)+ PDGFRα(αR)+として識別できることが明らかになった。さらに、中内胚葉細胞は、gsc+ ECD+αR- 細胞とgsc+ ECD-αR+細胞に分化し、それぞれ胚体内胚葉と中胚葉に分化していくことが示された。また、gfp導入の遺伝子操作をしていない細胞でも、ECDとαRを表面抗原として中内胚葉細胞を分離精製できることが明らかとなった。
続いて彼らは、gsc遺伝子とsox17遺伝子の遺伝子座にgfp遺伝子とhuCD25遺伝子をそれぞれ導入したES細胞を作成し、胚体内胚葉と臓側内胚葉を識別することに成功した。このES細胞を用いると、胚体内胚葉(Gsc+ Sox17+)と臓側内胚葉(Gsc- Sox17+)の分化を区別してモニタリングすることが可能で、それぞれに有効な選択培地を検討できる。また彼らは、胚体内胚葉と臓側内胚葉の遺伝子発現を比較することで、それぞれの細胞で異なった発現パターンを示す7つの細胞表面分子を同定した。このうちの1つ、CXCR4は胚体内胚葉に特異的に発現することから、この分子に対するモノクローナル抗体を用いることで、遺伝子操作をせずにES細胞の分化をモニターし、さらに胚体内胚葉細胞のみを分離精製することが可能になった。
将来、ES細胞由来の細胞を移植医療に用いることを想定した場合、非常に精製度の高いピュアな細胞集団が必要になる。今回の研究では、遺伝子操作をしたES細胞を用いて分化プロセスを詳細に解析し、それぞれの細胞種に特異的な表面抗原を同定した。これにより、遺伝子操作をしていないES細胞でも内胚葉と中胚葉の初期分化を詳細にモニタリング、さらには分離精製することが可能になった。哺乳類の発生においても中内胚葉というバイポテンシャルな細胞が存在することを裏付けると同時に、再生医療の実現にも大きなインパクトを与えたと言える。
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