ノードにおけるFoxa2の発現メカニズム |
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イモリやカエルなどの初期発生において、オーガナイザー(形成体)と呼ばれる胚の領域が周囲の細胞に働きかけ、次々と細胞分化や形態形成を誘導していくことは良く知られている。体の基本構造をつくり上げるこの「司令塔」とも言うべき細胞集団は、両生類のみならず哺乳類にも保存されている。マウスの場合、約6.5日胚の原始線条の前側先端にオーガナイザーが形成される。このオーガナイザーはまず頭部誘導に関与した後、ノード(結節)と呼ばれる特徴的な構造をとり、7日目頃から胴部形成の誘導を開始する。ノードには脊索前駆細胞が含まれ脊索へと細胞を供給しているが、この脊索もまた、胴部の背腹軸にそったパターニングを制御するシグナルセンターとして働く。ノード特異的に発現する遺伝子は数多く見つかっているが、なかでもFoxa2は脊索を含む多くのシグナルセンターの発生にかかわる重要な転写因子として知られている。しかし、このFoxa2の発現がどの様に制御されているのかは未解明な点が多かった。
今回、胚誘導研究チームの佐々木洋チームリーダーらは、Teadと呼ばれる転写因子がFoxa2遺伝子のエンハンサー領域に結合し、他の因子と共同してノードにおけるFoxa2の発現を促進していることを明らかにした。この研究は大阪大学との共同で行われ、Development誌に10月5日付でオンライン先行発表された。
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Foxa2エンハンサーのコアエレメント(CE)によるノードでの遺伝子発現(βgal、青) |
佐々木らは以前に、ノード及び脊索で特異的に機能するFoxa2のエンハンサー領域を同定し、その機能に必須な14塩基対を見出していた。彼らはまず、このエンハンサーの機能を容易に解析する為に、必須配列を含む27塩基対のコアエレメント(CE)をレポーター遺伝子につなぎ、マウス胚における発現解析を行った。その結果興味深いことに、レポーター遺伝子であるβガラクトシダーゼの発現領域とWnt/βカテニンシグナル経路の活性化領域が類似していることが明らかになった。そこでマウス胚から得られた癌細胞を用いて、WntシグナルとCEの活性化との関係を調べたところ、CEは間接的にではあるが、Wntシグナル依存的に活性化されることが明らかになった。
さらに解析を続けたところ、CEに2つの転写因子が結合することによってこのエンハンサーが活性化されることが予想された。そこで、これら2つの因子を同定するために、CE配列を用いてイーストの1ハイブリッドスクリーニングを行った。その結果、マウスcDNAライブラリーから得られた陽性クローンの多くは、Teadファミリーと呼ばれる転写因子をコードしていた。Teadファミリーとその補因子であるYap65の発現解析を行ったところ、6.5〜8.5日胚においてFoxa2を発現する領域を含む広い領域で発現していることが分かり、CEの活性化因子である可能性が強く示唆された。細胞レベルでTeadファミリーとCEの活性の関係を解析したところ、Yap65の存在下でTead1〜4全てがCEを活性化することが分かった。また、ゲルシフトアッセイの解析などから、TeadはCEの3’側に結合することが示唆された。一方で、TeadファミリーによるCEの活性化はWnt/βカテニン経路とは無関係に起きることも明らかになった。Teadファミリーはノードや脊索以外にも広く発現していることからも、Wnt/βカテニン経路の下流で機能するもう一つの因子の存在が予想され、彼らはそれをPOT(Partner of Tead)と名付けた。この因子がノード及び脊索に特異的なCEの機能を規定していると考えられる。
続いてin vivoでのTeadファミリーの機能を調べるために、機能抑制型のTeadをマウス胚に発現させる実験を行った。その結果、Teadの機能を抑制すると、Foxa2遺伝子の発現と正常な脊索の形成が共に抑制されることが分かった。この結果は、in vivoにおいてもFoxa2のエンハンサーの活性化にTeadが必要であることを示している。彼らはゼブラフィッシュを用いて同様の実験を行ったところ、マウスのノードにあたる胚盾(embryonic shield)においても、TeadがFoxa2の発現を制御しているという結果が得られた。
これらの研究から佐々木らは、ノード及び脊索におけるFoxa2のエンハンサーの活性化には2つの転写因子の結合が必要で、そのうちの一つがTeadであるとしている。ノードで特異的に発現しWnt経路の下流で活性化するもう一つの因子、POTの同定も待たれるが、今回の研究は脊索の形成という重要な現象の一端を明らかにすると同時に、広範囲に発現する遺伝子が、他の遺伝子発現との組み合せに応じて部位特異的な機能を発揮するメカニズムの重要性を改めて示した。
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