独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2004年11月23日


両方欠損すれば正常:MIG-17はフィビュリンを介して細胞移動を制御している
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発生中の胚では、様々な細胞や前駆組織がそれぞれの最終目的地に向かってめまぐるしく移動している。しかしこれらの細胞は、進むべき方向を自ら決めているというよりも、周囲につくられた道に従って移動しているようだ。どのような分子によってこの道がつくられ、細胞移動が正しく制御されているのかは、発生学の重要な疑問の一つである。

線虫C. elegansの発生では、U字状の生殖巣の形成がみられる。生殖巣原基は最初、体の中央部に生じるが、両端に存在するDTC(Distal Tip Cell)と呼ばれる細胞が先導する形で、U字状に伸長していく。このDTCの細胞移動は、ADAMファミリーに属するメタロプロテアーゼ、MIG-17によってコントロールされている事が以前の研究で明らかになっていた。CDBの西脇清二チームリーダー(細胞移動研究チーム)らは今回、FBL-1の2つのアイソフォームのうち一方が、MIG-17によるDTCの細胞移動制御を仲介していることを明らかにし、Current Biology誌に11月23日付けで発表した。

頭部の筋細胞および腸細胞で発現するfbl-1::GFP

MIG-17のヌル変異では、DTCの細胞移動に異常が生じ、結果として生殖巣の形態異常が起こる。西脇らは最初に、この表現型を抑圧する変異をfbl-1遺伝子に見出した。fbl-1は、哺乳類において基底膜や細胞外マトリックスにみられる蛋白質、フィビュリンのホモログをコードする。彼らは、FBL-1の変異蛋白質をMIG-17欠損株に過剰発現させた場合も、DTCの細胞移動が正常に戻ることを確かめた。FBL-1の機能解析を目的に、fbl-1遺伝子の欠損変異体を作成した結果、生殖巣の形成に大きな異常がみられた。このことから、FBL-1がDTCの細胞移動に関与し正常な生殖巣形成に必須である事が示唆された。FBL-1には、選択的スプライシングによりC末端の構造が異なる2つのアイソフォーム、FBL-1C及びFBL-1Dが存在するが、西脇らが解析を続けたところ、FBL-1Cの変異のみがMIG-17欠損の表現型を抑圧できることが明らかとなった。また、FBL-1の発現と局在を調べた実験では、FBL-1は筋細胞や腸細胞で発現するが、FBL-1Cのみが生殖巣の基底膜に局在する事が示された。さらに興味深いことに、野生型のFBL-1CはMIG-17依存的に基底膜に強く局在する一方で、FBL-1Cの変異体はMIG-17の活性に非感受性で、基底膜に弱く局在するのみであった。

これらの結果は、DTCの正常な移動には、FBL-1CがMIG-17との相互作用によって基底膜に局在する事が必要であることを示している。しかし彼らは、未発表のデータから、FBL-1はMIG-17の直接の基質ではないと考えている。彼らが提唱しているモデルでは、MIG-17が未知の基質の分解を介してFBL-1Cを基底膜に局在させ、これにより正常なDTCの移動に必要な基底膜の再編成が誘導される。また、fbl-1変異体がMIG-17欠損の表現型を正常に戻せるのは、変異型FBL-1蛋白質が本来MIG-17の下流で起こる反応を何らかの形で模倣するためとしている。今後、MIG-17の経路の詳細が明らかにされる必要があるが、西脇らの研究成果は、細胞移動の制御にフィビュリンが関与するという、新しい知見をもたらしている。


掲載された論文 http://www.current-biology.com/content/article/abstract?uid=PIIS0960982204008541

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