JSPSサマープログラム若手外国人研究者「CDBでの研究と日本文化を体験する夏」 |
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自国を離れ新しい環境で、しかも世界トップクラスと称される研究機関で研究をする機会を得るということは、若手研究者にとって何ものにもかえがたい経験となる。日本学術振興会(JSPS)と総合研究大学院大学が共催し、アメリカ、英国、フランス、ドイツ、カナダの海外協力機関の協力を得て行われているJSPSサマープログラムによって、これまで4名の若手外国人研究者が発生・再生科学総合研究所(CDB)にやって来た。本プログラムは、北米及び欧州の博士号取得前後の若手研究者を日本の大学及び研究機関の研究室が受け入れ、彼らが日本の文化や研究システムに触れ、研究活動を行う機会を提供するというもので、毎年6月末から8月末の約8週間の日程で行われている。
瀬戸内海に面した美しくダイナミックな港町神戸。CDBはその神戸の中心部からさほど遠くない場所に位置している。そのせいもあってか、過去2年間のJSPSサマープログラム研究者の受入れは4名と、新しい研究機関としては受入れ実績はかなり高い。プログラム応募者は全国115の大学共同利用機関、国立研究機関、独立行政法人やNPO法人などから自分の受入れ機関を選択することができる。個人的なつながりや特定の関係によってCDBを選択した研究者もいるが、一方でCDBの世界的な評価が決め手となったと語る研究者もいる。その一人がCantas Alevだ。2003年ドイツで博士課程を履修中に同プログラムでCDBにやって来た。彼は次のように語ってくれた。「新しく設立されたばかりのCDBは発生生物学の若手研究者が高い密度で集約されていて、世界でもこんな研究機関は数少ないと思う。技術的にも、また人的交流の面でも、エキサイティングな研究環境と言えるよ。」
毎年、サマープログラム参加者の日本体験は、湘南の静かな海辺で過ごす1週間のオリエンテーションからスタートする。ほとんどの参加者は有益だったと答えているが、中には時間をもっと有効に使いたかったと漏らす者もいる。「7日というよりはむしろ3日くらいでいいよ。日本滞在はたった2ヶ月なのに、その8分の1がオリエンテーションなんてもったいない。」と語るのは、Neal Rao。彼は、前年CDBにて広報および国際関係のコーディネーターとして働いた後、2003年に再びサマープログラムを利用してCDBにやって来た。「オリエンテーションは大切だとは思うけど、葉山でのんびり過ごしたって実際の日本を”知る”ことにはならないよ。(だったらリゾート地に行くより都会に行くべきだよね。) オリエンテーションは、受入機関で実施するほうがいいんじゃない?」
サマープログラム参加研究者は、JSPSおよび自国の協力機関の推薦を得て受入れが決定となる。往復の渡航費に加え、滞在費と国内研究旅費、また受入研究室が利用することのできる調査研究費を支給される。受入研究機関に滞在している間の宿泊費用はその滞在費で賄うことになるが、神戸のような都市では、短期滞在用アパート(いわゆるマンスリーマンション)は物件の数も少なく家賃も高いため、非常な困難を伴うこともしばしばである。神戸での経験の中でこの問題が一番のネックだったと語る研究者もおり、医療産業都市構想における外国人ゲスト用宿泊施設の必要性がますます浮き彫りとなっている。
しかしながら、センターの研究環境についてはどの参加者も高く評価している。「僕が強く惹かれている幹細胞の研究をやるには、CDBは世界でも最高の場所だ。」とRaoは語る。「前に居たラボは、機器も古いし、いい設備は新しいキャンパスに移される。これまで見た設備の中ではCDBが一番だと思うよ。」フルタイムの研究者としてまた日本で研究をやりたいかとの質問に、4名全員がイエスと答え、CDBの設備の良さと研究室に対するサポートレベルの高さをその理由に挙げた。
カムバックの約束を実現した研究者がすでに二人もいる。博士号を取得したAlevは、この夏、1年のポスドクフェローシップを獲得し、幹細胞医療応用研究チーム(浅原孝之チームリーダー)に戻ってきた。また、感覚器官発生研究チームのリーダーRaj Ladherの初来日は、1998年のJSPSサマープログラム、受入機関は東京医科歯科大学だった。「僕が参加した時より規模がずっと大きくなってる。プログラム参加者は2倍にはなっているみたいだね。」
外国人研究者に日本の研究環境を知ってもらおうというこのプログラムは、すべての参加者にとって新鮮な異文化体験となっている。CDBにやって来た外国人研究者が気づくさまざまな違いの中でも、目立つのはコミュニケーションスタイルと就労時間の違いのようだ。Alevは次のように語っている。「日本の研究者はとっても遅くまで働く。ドイツの博士課程の学生たちも遅くまで働くし週末も仕事していたりするけど、日本はもっと遅いのでびっくりしているよ。みんなが遅くまで残っているおかげで、最後にひとりぼっちにならずに済むのはいいことだけどね。」しかしながら、外国人研究者が日本滞在中に孤独に陥ってしまうケースも少なくないという。「同じ研究室の大学院生を介してでしか、教授に話ができなかった研究者を知ってるわ。」と語るのは、2004年夏、Ladher研究室に来たCarole Burnsである。「幸い、ここではそんな問題がなくてよかったと思ってる。」
研究室で長い一日を終えることがしばしばあったとしても、日本での夏は仕事ばかりというわけではない。神戸は地の利もよく、さまざまなエンターテイメント、観光や歴史文化探訪の場を提供してくれる。プログラム終了後は、少し羽を延ばして北海道や九州、その他各地へと、日本の夏を堪能した研究者も少なくないようだ。
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