後脳の進化に新たな知見 |
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後脳は脊索動物の神経管の進化過程を語りうる、きわめて興味深い脳の一部である。倉谷滋チームリーダー(形態進化研究チーム)らは、脊椎動物の進化の初期に枝分かれし、今でも生き残っている無顎類の一種、ヤツメウナギを用いた研究で、後脳の形成と神経細胞の分化を司るメカニズムについて興味深い現象を発見した。この研究成果は科学誌Developmentに発表される。
脊椎動物の後脳はロンボメアと呼ばれる分節構造からなり、そのそれぞれに特殊な神経細胞が分化する。しかし、より原始的な脊索動物であるナメクジウオは後脳に相当するものは持つが、分節的なパターンはない。ヤツメウナギは、系統的にはナメクジウオと顎をもつ顎口類の間から派生してきたと考えられる動物であり、後脳の進化的変化を解明する有用なモデルとなる。
倉谷チームの村上研究員は、カワヤツメLethenteron japonicumを用いた研究で、まず後脳に由来する網様体脊髄神経および鰓弓運動神経を標識し、それらの発生位置を明らかにすると同時に、後脳特異的な遺伝子発現パターンを解析した。これにより、ヤツメウナギの網様体神経も顎口類のゼブラフィッシュと同様に、後脳の特定の分節(あるいはロンボメア)に発生することがわかった。しかし興味深いことに、ヤツメウナギでは三叉神経や顔面神経の運動神経細胞の発生位置がロンボメアの境界と一致しない点で顎口類と異なることがわかった。つまり、ヤツメウナギの三叉神経と顔面神経の分布境界は、LjHox3発現境界と一致しつつも、ロンボメア境界とは一致せず、むしろ第4ロンボメアの中央に見いだされる。さらに彼らは、レチノイン酸(Hox遺伝子の発現に影響を与え発生プログラムに関与する)をヤツメウナギ胚に与えると、LjHox3の発現位置と鰓弓運動神経核の位置がシフトする一方で、ロンボメアの分節パターンや網様体脊髄神経の位置には変化が起こらないことを明らかにした。
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全ての脊椎動物において第4ロンボメアで発生するマウトナー細胞(矢印) |
これらの結果は、ヤツメウナギでは後脳の神経発生機構と分節化機構がそれぞれ異なり、いくぶん独立したメカニズムによって支配されていることを示している。これらの結果をもとに倉谷らは、本来それぞれ独立したメカニズムが顎口類の進化の過程で2次的に結びつき収束した結果として、Hox遺伝子の発現とロンボメアの分節パターン、神経細胞の発生パターンが一つの前後軸の上で統合されるようになったのではないかと説明する。
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