独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2004年1月13日


翻訳制御メカニズムに新たな知見
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生殖系列研究チームの中村輝チームリーダーらはショウジョウバエの生殖細胞形成を題材にした研究で、Cupと呼ばれるタンパク質が翻訳開始複合体の形成を阻害することを明らかにし、翻訳制御メカニズムの研究に新たな知見を加えた。この研究成果は1月12日付のDevelopmental Cellオンライン版に発表される。

タンパク質が細胞内の特定の位置で特定の時期に合成されるためには、mRNAの輸送と翻訳が適切に制御される必要がある。このようなタンパク質の局所的な合成は、非対称細胞分裂や細胞運動、体軸決定など様々な生命現象に必須である事が知られている。ショウジョウバエの卵形成ではoskar (osk)と呼ばれる母性遺伝子のmRNAが卵細胞の後極に局在して翻訳され、受精後の胚のパターニングや生殖細胞形成に関与していること事が知られている。中村チームリーダーらは以前の研究で、osk mRNAはいくつかのタンパク質と細胞質顆粒を形成し、翻訳が抑制された状態で卵細胞後極に輸送されることを明らかにしていたが、その翻訳制御メカニズムの詳細は未解明であった。


ショウジョウバエの卵形成過程におけるRNA蛋白質複合体は細胞質で顆粒を形成している。

今回の研究で中村チームリーダーらは、細胞質内輸送途上のosk mRNAと複合体を形成している新規タンパク質として,翻訳開始因子eIF4EとCupと呼ばれるタンパク質を同定し、それらの機能解析を進めた。その結果、CupはeIF4Eと直接結合することでeIF4E-eIF4G相互作用を阻害し、osk mRNAの翻訳抑制因子として機能していることを示した。


ショウジョウバエの卵形成におけるosk蛋白質の分布
WTではstage8以降に検出されるのに対して、cup変異体では卵形成初期から異所的な発現が見られる。

さらに、Cupはosk mRNAの3' UTRに結合するRNA結合タンパク質Brunoとも会合することが明らかになった。Brunoは,osk mRNAの翻訳抑制因子として機能することが知られていたが,どの様にしてosk mRNAの翻訳を抑制しているのかについては全くわかっていなかった。中村らの研究結果は、CupがBrunoとeIF4Eの結合を仲介し,5' 末端と3' UTRを相互作用させることで,osk mRNAの翻訳抑制を実現している事を予想させる。このようなモデルは、種間を越えて保存された翻訳制御メカニズムの1つであると考えられる。


Cup蛋白質が3'UTRのBrunoと5'末端のeIF4Eの結合を仲介して翻訳抑制を行うモデル
このようなmRNA種特異的な翻訳抑制機構とグローバルな翻訳抑制機構(マスキング)によって蛋白質の発現が時空間的に制御されている。

細胞内において遺伝子発現が翻訳レベルで時空間的に制御されることは、発生をはじめ生物の様々な現象に必須であることから、mRNAの輸送と翻訳制御のカップリング機構の一部を明らかにした点でこの研究は重要であり、翻訳抑制の解除機構を含めた更なる詳細の解明が期待される。


掲載された論文 http://www.developmentalcell.com/content/article/abstract?uid=PIIS1534580703004003

[ お問合せ:独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター 広報国際化室 ]


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