独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2003年10月17日


ヒトES細胞を用いた研究計画3件が研究倫理委員会に承認される
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理化学研究所 神戸研究所 研究倫理委員会は2003年10月10日、発生・再生科学総合研究センター(CDB)で実施する予定のヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)を用いた3つの研究計画を承認した。
ヒトES細胞を用いた研究については、日本政府の指針により、文部科学省に研究計画が提出される前に研究機関の研究倫理委員会によって承認されることが義務づけられている。
今回の研究倫理委員会の決定を受けて文部科学大臣の確認の手続きに入り、大臣の承認を待って研究が開始される予定である。

今回承認を受けた3つの研究テーマ

(概 要)

細胞分化・器官発生グループの笹井芳樹グループディレクターは、ヒトES細胞を特定の神経細胞に分化・誘導するための研究及び技術開発を計画している。この研究により将来、パーキンソン病や視覚障害、消化器障害などで欠損している神経細胞と同じ神経細胞が得られるようになると期待される。幹細胞研究グループの西川伸一グループディレクターは、ヒトES細胞から脂肪細胞及び中胚葉系幹細胞に分化・誘導し、糖尿病などの代謝異常の仕組みを生化学的に解明するための研究システムの構築を目指す。また、多能性幹細胞研究チームの丹羽仁史チームリーダーは、ES細胞の培養に一般的に利用されているマウス由来のフィーダー細胞(支持細胞)や仔牛の血清などを用いないヒトES細胞培養法の開発を計画している。これにより将来の再生医療において、ヒトES細胞を用いた細胞移植がより安全に行えるようになると考えられる。これらの研究はいずれも、京都大学再生医科学研究所の中辻憲夫教授のグループが提供するヒトES細胞を利用する予定である。

(背 景)

ES細胞はその全能性、つまり体を構成する全種類の細胞に分化できる能力ゆえに、生物学及び医学の分野で注目を集めている。ES細胞は細胞分裂を経て、より専門的な機能をもつ細胞に分化できると同時に、未分化状態を保ちながら自己増殖する能力も備えていることが知られている。現在までマウスなどヒト以外のES細胞を用いた研究が行われ、生物学に重要な知見をもたらしてきたが、ES細胞の医療応用を実現するためにはヒトES細胞を用いた研究が必要となってきた。

(これまでの成果、意義、波及効果など)
(1)

笹井グループではES細胞を特定の神経細胞に高効率に分化・誘導する技術を開発してきた。SDIA(Stromal cell Derived Inducing Activity)と呼ばれるこの手法は、マウス及びよりヒトに近いサルのES細胞を用いて研究されてきた。これらの研究成果はストローマ細胞(骨髄などで支持組織を構成する細胞)をフィーダー細胞に用いた培養ES細胞に、増殖因子を特定の組合せで加えることで多くの中枢神経性及び末梢神経性の神経細胞を分化・誘導できることを示している。目的の神経細胞を効率よく分化・誘導し、純化することは再生医療における細胞移植治療に必須であり、ドーパミン産生細胞を欠くパーキンソン病や、腸管神経に異常がみられるヒルシュスプルング病の治療などに大きな可能性を開いた。

(2)

西川グループではES細胞から脂肪細胞及び中胚葉性幹細胞を分化・誘導する研究を行ってきた。これらの分化・誘導が可能になれば、軟部組織の再生や生物素材のスクリーニングなど多くの医療研究に応用できる。臨床応用の可能性の1つには、乳房切除手術後の脂肪細胞の移植による回復などが考えられ、手術後のQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)の向上に貢献できると期待される。さらにES細胞から得られた脂肪細胞はその分化と増殖、また脂肪の代謝などの基礎研究にも用いられる。また、血液細胞や心筋細胞など多くの細胞は中胚葉に由来することから、ES細胞の中胚葉系細胞への分化コントロールは再生医療に重要になることは明らかである。

(3)

ヒトES細胞を再生医療に用いるためには、ウイルスなどの混入を防ぐために完全に組成の明らかな培地を用いた培養法の確立が必須である。しかし現在一般的なES細胞の培養法はマウス由来のフィーダー細胞や仔牛由来の血清を必要とする。このような培養法で得られたES細胞は、病原体の混入などの危険性からヒトへの移植治療には用いることができない。丹羽チームではこれらの問題を解決するために、マウスES細胞で開発した培養技術を基に、フィーダー細胞及び血清を用いないヒトES細胞の培養法の開発を計画している。





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