生物の縞模様の方向性をチューリングモデルで再現 |
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近藤滋チームリーダー(位置情報研究チーム)らは、数学的理論モデルを用いた研究で、皮膚上の分子拡散の不均一性(異方性)によって生物の縞模様の方向性が決まることを今回明らかにした 。
多くの熱帯魚はストライプ模様を持っているが、ストライプの向きは種によってさまざまであり、ごく近縁の種間でも全く異なる方向の縞を持っている例も多い。縞の方向性はいったいどのようにして決められるのであろうか?
動物の皮膚模様は、イギリスの数学者チューリングが予見した化学反応相互作用の波「反応拡散波」によって作られると考えられている。1995年に近藤滋らは、Pomacanthus属のエンゼルフィッシュに見られる縞模様の移動が、チューリングモデルで必要十分に説明できることを明らかにした。生物の皮膚模様がチューリングの反応拡散原理に従っている直接的な証拠を初めて示したことにより、数学的解析による皮膚および体のパターン形成の研究に弾みをつけた。しかし、チューリングの原理のみでは、縞の間隔を決める事は出来ても、その方向を決める事は出来ず、方向性の問題は理論的にも未解決であった。
Genicanthus属のエンゼルフィッシュの雄は種によって異なる方向の縞模様を持つが、雌は模様を持たない。面白いことにこの属では雌から雄への性転換がおきる。その過程で、皮膚は無地から不規則な斑点、乱れた縞、平行な縞へと特徴的な変化して示す。近藤らは、2つの近縁種、Genicanthus watanabei(縦縞模様)とGenicanthus melanospilos(横縞模様)の性転換時における模様変化をシミュレーションにより解析するし、どのような作用で縞に方向性が生じるかを推測した。今回の研究成果はDevelopmental Dynamicsの4月号に掲載された(Dev Dyn. 2003 Apr;226(4):627-33.)。
近藤らはこの反応拡散モデルを分子の拡散の不均一性(異方性)を組み込むという形で拡張し計算実験を行った結果、ごくわずかな異方性を導入するだけで縞模様に方向性が生まれることを見出した。また、方向性のある縞が出現するまでの途中経過も実際の魚での観察されたものと完全に同じであった。近藤らは、これら2つの種間の鱗の構造のわずかな違いが分子拡散の異方性を生み出していると考えている。これらの研究成果は、生物の模様形成、さらにはパターン形成の理論的研究に新たな知見をもたらしたといえる。
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