受精卵という1つの細胞から出発した生命は、細胞の数と種類を増やし、やがて組織や器官を構成して体をつくりあげます。これを実現している仕組みを解明することは、生命科学における最重要課題の一つであると同時に、疾病メカニズムの理解や、再生医療を始めとする次世代医療の推進のためにも必須です。
理化学研究所 多細胞システム形成研究センター(理研CDB)は、その前身である発生・再生科学総合研究センターで培われた発生生物学、分子細胞生物学、再生医学における独創的な研究を礎として、目標をより明確に設定した研究プログラムを推進しています。
これらのプログラムでは、生命の根幹を担う遺伝情報の維持機構、細胞分化や環境変化に伴う遺伝子のエピジェネティックな制御機構、幹細胞の維持・分化機構といった細胞レベルの課題から、細胞集団が複雑な組織や器官を形成していくメカニズムまで、幅広く重要課題に挑み、それらの統合的な理解を目指します。さらに、生物学と数理・物理科学との融合を図り、力学モデルや統計学的モデルを導入して複雑な体が形成される原理を明らかにします。
理研CDBでは、これらの基礎研究から得られる知見を、ヒトの様々な疾病の原因究明に役立てます。また、幹細胞から組織や器官を試験管内で形成する技術を確立し、再生医療を始めとする新しい医療技術の創出に貢献します。現在は、まず網膜再生に関する研究を着実に実施し、医療機関等と連携して治療法確立に向けた橋渡しを進めております。今後はさらに、これまで再生が難しいと考えられてきた器官の再生にも挑戦していきます。
これらの研究を革新的に進めるためには他分野との連携が必須です。そのため、理研の生命システム研究センター(QBiC)、ライフサイエンス技術基盤研究センター(CLST)、主任研究員研究室を始めとする各組織や、外部の研究機関、大学、企業、病院等との共同研究を推進していきます。人材育成も重要なミッションです。理研CDBがこれまでに築き上げた若手育成のポリシーを引き継ぎ、これを通じて大学等他機関との人事交流を促進します。また、神戸市や兵庫県等行政との連携もさらに深め、社会の期待に応える研究成果を発信していく所存です。
多細胞システム形成研究センター
センター長 濱田 博司